- 著者
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木俣 行雄
都留 秋雄
河野 憲二
- 出版者
- 奈良先端科学技術大学院大学
- 雑誌
- 特定領域研究
- 巻号頁・発行日
- 2002
小胞体ストレスと総称される外的および内的要因により、小胞体における分泌系タンパク質の高次構造形成が阻害されたとき、細胞は様々な生体防御反応を引き起こす。それら小胞体ストレス応答のための細胞内シグナル情報伝達経路の出発点は、Ire1に代表されるいくつかの小胞体膜貫通タンパク質である。1型膜タンパク質であるIre1、C末端にRNaseドメインを持ち、これがエフェクターとして機能していると考えられる。出芽酵母Ire1の標的はHAC1 mRNA前駆体であり、Ire1依存的なスプライシングにより生じた成熟型HAC1 mRNAは転写因子タンパク質に翻訳され、小胞体内在性分子シャペロン等の発現を転写レベルで誘導する。本研究において我々はまず、非ストレス条件下で培養された細胞内でも、僅かながらこのスプライシングが起きており、生成するHac1タンパク質はいくつかの栄養状態応答遺伝子の発現を抑制していることを見いだした。栄養状態の変化により全くスプライシングが起きなくなると、この抑制が解除されると考えられる。次に我々は、小胞体ストレスによりIre1が活性化される機構として、小胞体内在性分子シャペロンであるBiPの関与を明らかにした。我々の確立したモデルでは、非ストレス条件下の細胞では、BiPがIre1に結合していて、Ire1の活性化を抑えている。一方、小胞体ストレスに応じて構造異常タンパク質が蓄積すると、BiPはそれと結合するためにIre1から解離し、自由となったIre1は活性化して小胞体ストレス応答を引き起こす。最後に我々は、哺乳類に存在する2種類のIre1パラログのうち、Ire1βは、従来から報告されている転写因子XBP1 mRNAスプライシングや28SrRNA切断の他に、未同定の新規RNAを標的として、その結果アポトーシスを誘起することを見いだした。