著者
坂本 憲治 本多 千賀子 永山 由貴 木内 理恵 成田 奈緒子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2016, no.26, pp.595-609, 2016

<p>本研究の目的は,専任カウンセラー不在の学生相談機関の問題を明らかにし,今後の研究に示唆を得ることである.X大学保健センター相談室を対象に後向調査を行った.まず,保健センター年報や会議録をもとに年間延べ相談件数,学生の来談率,実質カウンセラー数等の推移を調べた.次に,学生相談機関充実イメージ表(福盛ら,2014)を用いて学生相談機関としての発展レベルの推移を評価した.最後に,学内関係者への面接調査を実施し,各時期の状況を把握した.X大学の学生相談室は開設以後10年間に「充実しつつある段階(充実度3)」まで発展し,相談機関としての要件を整えた(第Ⅰ期).年間相談件数は開設11~25年に「右肩上がり」の傾向を示したが(第Ⅱ期),開設27年,3年の任期付雇用導入を境に「短期増減」に転じた(第Ⅲ期).専任カウンセラーの先行研究では「右肩上がり」の後に学生相談機関の充実がみられたが,X大学では33年間を経てもなお「充実しつつある段階(充実度3)」にとどまった.その背景には,相談室内部における相談運営のありようや,学生相談室と学内他部署との関係性が関与していた.以上から,専任カウンセラー不在の学生相談機関に起こりやすい問題として(1)年間相談件数推移の不安定さ,(2)学生相談機関としての発展の停滞,(3)学生相談機関における密室性の高まりを指摘した.今後は,前向調査によってデータを蓄積し,問題の一般化を図る必要がある.</p>