著者
木島 亜依
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BeOS3024, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 当院では装具療法をPTアプローチの1つとして、積極的に治療やADL場面での活用が出来るよう、早期作製を掲げ取り組んでいる。年間300本近く処方される中には、両側支柱付き長下肢装具(以下KAFO)も多く含まれているが、KAFOに特化した治療効果や作製時期などの検証は行ってきていない。脳卒中ガイドライン2009においても、「短下肢装具」使用における歩行の獲得、治療効果は高いエビデンスレベルで推奨されているが、「長下肢装具」の効果を挙げられているものは乏しく、症例報告も少ない。 当院の取り組みの検証とエビデンスの構築に向け、本研究では、当院に入院し1本目に装具を処方された者を分析し、下記を検証することでKAFOの効果を明らかにする。1.KAFO処方による治療効果(入院時、退院時のADLの変化)2.処方時期と治療効果の関連性を明らかにし、装具の早期作製の有効性を検証【方法】 2009年4月1日~2010年8月31日の期間に、当院に入院したのべ1046人中、脳血管障害を呈した患者で、装具を1本目に処方された332名。(内訳:KAFO142名、両側支柱付き短下肢装具72名、プラスチック製短下肢装具63名、オルトップ9名、Gait Solution29名、その他16名)そのうち片麻痺患者に限定し(外傷性脳損傷、水頭症術後、入院期間中に急性増悪し入退院を繰返した者は除く)、KAFOを1本目に処方した66名(以下K群)と両側支柱付き短下肢装具又はプラスチック製短下肢装具を1本目に処方した95名(以下A群)を対象とした。 方法は、K群とA群の基本情報をカルテより抽出し、両群とで下記項目について統計学的に比較検討した。(1)基本情報は、年齢、性別、疾患名、発症日、入院日、退院日、装具処方日、処方時の下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)、入院時・退院時のFIM運動項目(以下M-FIM)、転帰とする。(2)K群とA群の入院期間、M-FIMについての比較(Mann-Whitney検定:有意水準は0.05とした)(3)K群とA群各々の発症から装具処方までの日数と、M-FIM利得の相関【説明と同意】 本研究に使用するデータの管理に関しては、当院の倫理規定に準じて行った。【結果】(1)K群は男性33名・女性33名、A群は男性61名・女性34名で、平均年齢はK群73.3±12.0歳、A群66.4±13.9歳であった。装具処方時のBRSは、K群はBRS2以下が52名、BRS3が12名、BRS4以上が2名に対し、A群はBRS2以下が9名、BRS3が54名、BRS4以上が32名であった。在宅復帰率(自宅、有料老人ホーム)はK群が54.5%、A群が75.8%であった。(2)入院期間は、K群の平均が140.0±39.3日、A群の平均が132.0±92.1日で有意差があり、K群の入院期間の方が長かった。入院時M-FIMについては、K群の平均が29.7±14.0点、A群の平均が39.2±14.4点で有意差があり、K群の方が、重症度が高かった。また、M-FIM利得ではK群の平均が14.7±14.3点、A群の平均が26.4±13.1点で有意差があり、退院時までのM-FIMの変化もK群の方が低かった。(3)発症から処方までの日数では、K群の平均が51.4±24.0日、A群の平均が45.1±45.1日であった。K群の発症から処方までの日数とM-FIM利得には、弱い相関関係が認められたが、一方A群は発症から処方までの日数とM-FIM利得の相関関係には、有意な差は認められなかった。【考察】 K群は、A群に比べ重症度が高いケースが多く、M-FIM利得についても、A群よりも得られる効果は低く、入院期間は長い傾向にあった。しかしK群は、早期作製するほど、退院時のM-FIMが上がる傾向があったことから、下肢の運動機能が比較的重度でも、早期よりKAFOを使用しアプローチしていくことで、退院時のADL向上につながる可能性があり、早期作製の意義はあると考える。一方A群については、発症から処方までの日数とM-FIM利得においての相関が得られなかった事から、K群よりも、慎重に装具作製の時期を見極める必要があると思われる。 本研究では、K群の早期作製の効果については一定の知見が得られたが、入院期間は長く、M-FIM利得が低い値であり、KAFO自体の効果についての立証は困難であった。これは入院時、退院時M-FIMともにK群は重症度が高く、ばらつきがあったことが原因と考えられる。また、重症患者の治療効果には、KAFOのみの効果ではなく、入院期間やADLに様々な要因が影響すると予測され、KAFO対象者のより詳細な調査、分析が必要と思われる。今後はKAFOの効果検証に向けて、適応基準など対象を増やしながら検証を継続していきたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より、KAFOは早期作製するほど効果が得られやすい事から、早期リハビリテーションの一助として、下肢の運動機能が重度でも早期よりKAFOを活用していくことは有用と考える。