著者
木戸 秀明 久保 佳史 井上 理 林 一孝 成田 祐士 内田 武 渡辺 正弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.79-91, 1993

イヌ急性心筋梗塞モデルを用いて,血栓溶解薬ナサルプラーゼ(plasminogen pro-activator)を静脈内に持続投与し,血栓溶解作用ならびに血栓溶解後急性期および慢性期の心機能の変化を検討した.冠動脈の閉塞により,循環動態においては心拍出量の減少,体血管抵抗および左心室拡張終期圧(LVEDP)の上昇が認められ,また左心室造影による解析の結果,左心室駆出率および左心室局所壁運動の低下等の心機能の低下がみられた.このモデルに,冠動脈閉塞30分後よりナサルプラーゼを8単位/kg/分の用量で静脈内投与した結果,78.6%(11/14)に再開通を認め,投与開始から再開通までの時間は平均37.4分であった.再開通時における血漿中フィブリノゲン量は薬物投与前と比較してほとんど変化しなかった.なお,再開通5~10分後より徐々に不整脈が出現した.再開通直後は左心室収縮機能がやや改善する傾向を示したものの,心機能全体としては改善をみなかった.しかしながら,1週間後にはナサルプラーゼによる再開通群で心機能,とりわけ収縮機能の回復がみられ,心臓に対する負荷が軽減されたのに対し,対照群(薬物非投与群)では回復を認めなかった.対照群では冠動脈の持続的な閉塞によって心臓が肥大し,左心室前壁から心尖部にかけて広範な心筋壊死が観察されたが,再開通群では梗塞サイズが対照群に比して有意に小さく,心肥大の進展が抑制された.以上のことから,イヌを用いた急性心筋梗塞モデルにおいて,ナサルプラーゼの静脈内投与による再潅流療法は有用であると示唆された.
著者
木戸 秀明 大滝 裕
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.118, no.2, pp.97-105, 2001-08-01
被引用文献数
6

ループ利尿薬は強力な水および電解質の排泄作用により浮腫を軽減することから, 各種の浮腫性疾患に対して古くから広く使用されている. しかしながら, 同時にカリウム排泄量の増大に伴う低カリウム血症が惹起されることから, カリウム保持性利尿薬の併用などが行われている. 新規利尿薬トラセミド(ルプラック<SUP>®</SUP>)はループ利尿作用に加え, 抗アルドステロン作用に由来するカリウム保持性を併せ持った薬物であり, 生物学的利用率が高く, 食事の影響を受けないという薬物動態的特長も加え, 個体差の少ない安定した利尿効果を示す. 動物実験において, トラセミドは, 代表的なループ利尿薬フロセミドよりも約10倍強力な尿量増加作用を示し, 一方で尿中へのK<SUP>+</SUP>排泄量の増加がNa<SUP>+</SUP>排泄量の増加に比べ軽微である結果, 尿中Na<SUP>+</SUP>/K<SUP>+</SUP>比を上昇させた. その作用プロファイルはフロセミドおよび抗アルドステロン薬スピロノラクトンを併用した際の効果に匹敵した. また, 日本および海外で浮腫性疾患患者を対象に実施された臨床試験において, トラセミドはフロセミドに比して高い有効性および安全性を示した. さらに, 慢性心不全患者を対象とした大規模臨床試験において, トラセミドは心臓死の発生率をフロセミドに比し低減したが, その機序の一部に本薬の抗アルドステロン作用が寄与したと推察される. 本邦において, 10数年ぶりに上市されたループ利尿薬トラセミドは, 既存薬に勝る薬理特性から, 浮腫性疾患の治療薬として大いに期待される.