- 著者
-
篠崎 昌子
川崎 葉子
内田 武
- 出版者
- 一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
- 雑誌
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, no.1, pp.55-63, 2004-06-30 (Released:2020-08-21)
- 参考文献数
- 23
肢体不自由児通園施設の摂食指導において,指導に難渋する症例に遭遇することがある.12年間に摂食指導を受けた716名のうち,脳性麻痺などの原疾患により嚥下に障害があるため,訓練を継続したが24名が全面的に経管栄養が必要であった.一方,嚥下や口腔機能に大きな異常はないが,1年以上にわたり拒否のため経口摂取が進展しなかった21名を経験した.この21名は原因により 1)顔面,口腔,食道に外科的治療や処置の既往のある10名, 2)Costello症候群6名, 3)重度精神遅滞と難治性のてんかんを合併した5名の3群に大別された.外科的疾患症例では,新生児,乳児期からの治療に伴うさまざまの不快体験,指しゃぶりやおもちゃなめといった乳児期の感覚体験の欠如,味覚体験の遅延,強制栄養による空腹感の欠如などが摂食拒否と関係している可能性があった.また食べさせようとする介助者との心理的葛藤が,増悪要因になっていることも考えられた.比較的早期より経口摂取を経験した症例では,経口摂取への移行が順調に進んだ.一方,外科治療を反復し,味覚体験や経口摂取経験が遅れるほど,移行は困難であった.味覚体験や嚥下の時に食物塊が咽頭を通過する圧触覚体験には感覚入力として臨界期があり,未体験のままこの時期を過ぎると,経管依存あるいは不可逆性の摂食拒否の状態を引き起こすと考えられた.Costello症候群では摂食拒否の期間はさまざまであるが,学童期以降,自然軽快することが特徴であった.重度精神遅滞と難治性てんかんを合併した症例では,誘因が不明または些少の状況変化によって,摂食拒否や食への無関心といった症状が惹起されており,このような病態では「食への欲求」という基本的な生命維持力へも障害が及ぶことを示唆していた.