- 著者
-
木村 博道
秋山 英三
- 出版者
- 公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会
- 雑誌
- 日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:13498940)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, pp.56-81, 2009 (Released:2017-06-27)
- 参考文献数
- 16
- 被引用文献数
-
1
古典的な経済学では,通常,投資家は完全合理的な行動を行うと仮定する.そのような仮定をおいた理論では,市場均衡の存在を証明することが可能であるが,現実の投資家にとって重要な,スプレッド(アスクとビッドの差)やマーケットインパクト(注文に対して価格がどのぐらい変動するか)を説明することは難しい.その一方で,近年,投資家の合理性をまったく仮定せず,注文はポアソン到着に従って到着すると仮定する「ゼロインテリジェンスモデル」が提案されている(Smith et al. 2003).このモデルでは,スプレッドや価格の拡散係数を定量的に説明することが可能である(Farmer et al. 2005).しかしながら,ゼロインテリジェンスモデルでは,マーケットインパクトを表現する量の一種である,Kyleのλ(単位株数の注文に対して平均してどのぐらい価格が変動するか)を説明することはできなかった.本研究では,まず,東京証券取引所の実データを用いて,指値注文分布や直前の注文に依存して注文到着率がどのように変動するかなどの性質を調べた.次に,ゼロインテリジェンスモデルにそれらの性質を導入し,シミュレーションを行った.このモデルを「ローインテリジェンスモデル」と呼ぶことにする.その結果,ローインテリジェンスモデルでは,スプレッドや拡散係数に加えて,Kyleのλをも説明できることが分かった.このことは,金融市場の流動性を理解するには,注文と注文分布の相互作用,あるいは注文同士の相互作用が重要である可能性を示唆する.