著者
木村 幹子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.281-287, 2009 (Released:2017-04-20)
参考文献数
59
被引用文献数
3

性選択は種分化の重要な原動力である。性選択が単独の選択圧として種分化が生じる状況はまれかもしれないが、生態的な分化を引き起こす自然選択と連動して性選択が働くならば、種分化は起こりやすい。本稿ではまず、性選択単独では種分化が生じにくい理由と、自然選択との連動が種分化を促進する点を整理する。そして、性選択と自然選択との連動をもたらす形質であるマジックトレイトという概念を紹介する。本総説では、マジックトレイトとして、1)自然選択の標的となる形質に基づいて配偶者選択が行われる場合、及び、2)感覚システムが環境に適応進化することに伴って、選好性と交配シグナルが分化する場合(感覚便乗)、について、実証例を挙げながら紹介し、環境適応と関連しながら性選択が種分化を引き起こす(あるいは、促進する)可能性について議論する。
著者
安元 暁子 木村 幹子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.319-327, 2009 (Released:2017-04-20)
参考文献数
74

生物多様性がどのように構築されてきたのか、また、種分化がどのように起こり得るのかは、生物学における古くからの中心的な課題である。生物学的種概念に基づくと、種とは互いに生殖的に隔離された集団である。そのため、種分化は何らかの形で生殖隔離が進化することを必要とする。生殖隔離を進化させうる主要な原動力として、遺伝的浮動や異所的な環境条件への適応などが挙げられてきたが、動物においては性選択が長年注目されてきた。しかし、性選択単独では生殖隔離を進化させうる条件は限られており、近年は新たな原動力として、環境適応と性選択が関連している状況や、交配をめぐる雌雄の利害の不一致が引きおこす性的対立と呼ばれる状況が注目を浴びている。本総説では、まずは、種分化の研究のこれまでの概略を述べた後、ゲノミクス的手法から環境適応と性選択の双方に関わりのある遺伝子を明らかにし、種分化への寄与を示唆した研究についてレビューする。次に、性的対立の強さを操作することで数十世代後に生殖隔離が進化しうるかを調べた実験進化研究について、現状を整理する。最後に、ゲノミクス的手法が一般的になった今、これから重要となるトランスクリプトミクスとプロテオミクスが性選択や性的対立による種分化の研究にどのように寄与できるかを概観する。