著者
木村真人 梅垣佑介 河合輝久 前田由貴子 伊藤直樹 水野治久
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

企画趣旨悩みを抱えながら相談に来ない学生への支援は多くの大学に共通する学生相談・学生支援の課題である(日本学生支援機構,2012)。このような課題の解消に向けて,企画者は悩みを抱えながら相談に来ない学生への支援について,大学生本人の援助要請行動に焦点をあてたワークショップを企画した(木村・梅垣・榎本・佐藤,2012)。ワークショップでの議論を通して,悩みを抱えながら相談に来ない学生に対しては,学生の自主来室を待つだけの姿勢や,学生相談機関のみでの対応・支援には限界があることが明らかとなった。そこで本シンポジウムでは,学内外の多様な資源を活用した支援に着目する。この課題に対して問題意識を持ちながら現場で学生支援に関わっている先生方に,学内外の多様な資源を生かした支援の可能性と課題について,研究知見および実践活動に基づく話題提供をしていただく。学内外の資源として,具体的には学内の友人や学生コミュニティ,およびインターネットを活用した支援に焦点をあてる。話題提供および指定討論者からのコメントを受け,悩みを抱えながら相談に来ない学生への学内外の多様な資源を生かした支援の可能性や課題についてフロアーの方々とともに議論を深めたい。話題提供1:大学生の学生相談機関への援助要請過程における学内の友人の活用可能性―大学生のうつ病・抑うつに着目して―河合輝久(東京大学大学院)悩みを抱えていながら相談に来ない大学生に対する学生支援のうち,うつ病を発症していながら専門的治療・援助を利用しない大学生に対する学生支援の構築は喫緊の課題といえる。なぜならば,うつ病は修学を含む学生生活に支障を来すだけでなく,自殺の危険因子ともされているためである。従来の研究では,大学生の年代を含む若者は,自らの抑うつ症状について専門家ではなく友人に相談すること,友人から専門家に相談するよう促されることで専門家に相談しに行くことが明らかにされている。従って,学内の友人は専門家へのつなぎ役として活用できる可能性が示唆されているといえる。一方で,うつ病・抑うつ罹患者に対して,大学生は不適切な認識や対応をとるとされている他,罹患者に闇雲に関わることで情緒的に巻き込まれてしまう恐れも考えられる。従って,うつ病・抑うつを発症しながら相談に来ない大学生への支援における学内の友人の活用可能性について,うつ病・抑うつを発症した大学生とその身近な学内の友人の双方の視点から,学内の友人を活用するメリットおよび限界を把握しておくことが重要といえる。本発表では,うつ病を発症しながら相談に来ない大学生の学生支援における学内の友人を活用するメリットおよび留意点を概観した上で,学内の友人をインフォーマルな援助資源として有効に機能させる可能性について検討したい。話題提供2:学内資源を活かした支援を要する学生のコミュニティ参加を促す支援の実践―ピア・サポートの活用―前田由貴子・木村真人(大阪国際大学)大学に進学する発達障害学生の増加に伴い,発達障害学生支援の重要性が指摘されている。この発達障害学生支援体制構築に際しては,相談支援窓口となる部署の設置や,教職員間の連携などが必要要素であり(石井,2011),各大学における急務の課題となっている。従来から発達障害を含む何らかの障害を抱える学生や,悩みや問題を抱える学生に対しては,学生相談室が中心となり対応してきたが,特に発達障害学生支援においては,学生相談室での個別対応のみでは不十分であり,学内の様々な部署との連携による支援が求められる。発達障害学生支援においては,当該学生の友人関係構築の困難による孤立化を防ぎ,不登校・休学・退学に繋げない取り組みが重要である。彼らが孤立化する要因として,対人関係上の問題解決スキル不足があり,このスキル教授が支援の中でも大きな位置を占める。しかし,この問題解決スキル行使が可能になる環境が無い場合は,単なる問題解決スキルの知識獲得のみに留まり,その実践からのフィードバックを得ることが難しい。そのため,当該学生の問題解決スキル実践の場への参加促進及び,そのコミュニティ作りが肝要である。本発表では,このコミュニティ作りにおけるピア・サポート活用について言及することにより,「コミュニティの中での学生支援」について検討し,従来の学生相談体制の課題解決に向けた,新たな学生支援の可能性と課題について考察したい。話題提供3:学生相談機関のウェブサイトを通じた情報発信から学生の利用促進を考える伊藤直樹(明治大学) インターネット環境の整備やモバイル端末の急速な普及により,大学のウェブサイトが教育や研究に果たす役割は非常に大きくなった。大学は情報発信のためにウェブサイトを積極的に活用しており,学生も大学の様々な情報にアクセスしている。各大学の学生相談機関もウェブサイトを通じた情報発信を行っており,『学生相談機関ガイドライン』(日本学生相談学会,2013)の中でもその重要性が指摘されている。支援を必要とする学生はもちろんこと,家族,あるいは教職員も学生相談機関のウェブサイトを閲覧し,情報を入手しているものと思われる。しかし,学生相談機関としてウェブサイト上にどのような情報を掲載すべきなのか,また,利用促進につなげるにはどのような情報を掲載したらよいのか,あるいは,そもそも利用促進にどの程度効果があるのかといった問題についてはほとんどわかっていない。今回の自主シンポでは,2004年,2005年及び2013年に学生相談機関のウェブサイトを対象に行った調査の結果をもとに,ウェブサイトを利用した情報発信について話題提供を行いたい。まず,日本及びアメリカの学生相談機関における最近約10年間の情報発信の変化について取り上げ,次に,日本,アメリカ,イギリス,台湾の大学の学生相談機関の情報発信の現状について比較検討する。これらの知見に基づき,学生相談機関のウェブサイトを通じた情報発信の可能性について考えたい。話題提供4:学生支援におけるインターネット自助プログラムの可能性と課題梅垣佑介(奈良女子大学) 厳密なデザインの効果研究により有効性が示された臨床心理学的援助の技法を,インターネット上でできる自助プログラムの形で提供しようとする試みが欧米を中心に近年広がりつつある。特に認知行動療法(CBT)を用いたそういったインターネット自助プログラムはComputerized CBT(cCBT)やInternet-based CBT(iCBT)などと称され,複数のランダム化比較試験により若者や成人のうつ・不安に対する一定の効果が示されている一方,いくつかの課題も示されている。本発表では,イギリスにおいて大学生を対象としてInternet-based CBTを実践した研究プロジェクトの取り組みを,実際の事例を交えて紹介する。イギリスでの展開事例に基づき,非来談学生や留学生への支援可能性といった我が国の学生支援におけるインターネット自助プログラム活用の可能性を述べたうえで,従来指摘されていた高ドロップアウト率といった課題への対処,および大学生への実践から見えてきた新たな課題を検討する。我が国の学生支援の現場で今後インターネット自助プログラムを有効に展開するための議論の端緒を開きたい。(キーワード:学生相談,学生コミュニティ,インターネット)
著者
大渕徹之 岡村和男 木村真人 多々美滋
雑誌
デジタルプラクティス
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.246-253, 2012-10-15
被引用文献数
1

旅行・観光で役立つ機器として既存のナビゲーション機器をベースに,「旅」を主目的としたナビゲーション機器の企画・開発を行った.商品を企画・開発する過程で旅行や観光でのユーザの行動の分析を行い,情報端末としてどのような機能があれば旅や観光をより便利で楽しくできるかを議論し,試行錯誤を通じて商品として具体化していった.発売後には旅行・観光での利用促進を目的に観光旅行者のモニター使用や地域振興イベントでツールとして活用する取組みを行った.これらの事例が情報機器の観光事業への応用に活用されることを期待する.