著者
木野村 樹里
出版者
総合人間学会
雑誌
総合人間学 (ISSN:21881243)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.96-112, 2023 (Released:2023-09-06)
参考文献数
12

本稿では、児童虐待に関する新聞記事のフレーム分析を通して、これまで自明視されてきた親から子への「愛」、親の子に対する「責任」という観念がいまだに人々の間で信頼を置かれているのかについて検討した。 分析対象として収集した記事は、主に記事の見出しと記事中の経過的に重要なことが書かれている段落で加害者がどのような人物として描かれているのかを元に、 (1)親不適格フレーム、(2)煩悶フレーム、(3)精神疾患フレーム、(4)その他の非難フレームの4つのフレームに分類した。分析の結果、いずれかのフレームに該当する記事に占める「親不適格フレーム」の割合は2000年から2012年にかけて減少しており、2022年ではさらにその割合は減少していた。一方、加害者を描くいずれのフレームも持たない記事では、児童相談所に対する批判が多くを占めていた。非難される対象が親から児童相談所へと変化したことは、親の子に対する「愛」への信頼の失墜であるといえる。 親の子に対する「愛」や「責任」といったものは、近年になってようやく「自明ではないもの」として扱われるようになってきた。このような状況下においては、人々はより大きな枠組みである児童相談所などのシステムに頼らざるを得ないのである。