- 著者
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宮井 里佳
落合 俊典
本井 牧子
- 出版者
- 埼玉工業大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2005
中国北朝後半期の道紀撰『金蔵論』は、中国、西域、日本に広く伝播した形跡のある重要な書物である。しかし早くに失われ、昭和初期に日本古写本の存在が報告されるまで、忘れ去られた存在であった。我々は、仏教学的見地から北朝後半期の仏教の様相を伝える貴重な書として、また国文学的見地から『今昔物語集』など日本説話文学に影響を与えた書として、『金蔵論』をはじめて総合的に研究することをめざした。時をほぼ同じくして、敦煌写本中に『金蔵論』の断片があることが報告され、我々も新たに敦煌写本中の『金蔵論』を数点見出した。これらと、日本伝存の興福寺蔵日本霊異記紙背書写の巻六、および大谷大学蔵(旧法隆寺蔵)長承三(1134)年奥書写本「衆経要集金蔵論」巻一・巻二合本とについて、できる限り実見調査を行った。同時に、現存『金蔵論』本文について、諸本を校勘し、かつ原拠や仏教類書ならびに『今昔物語集』などと比較検討して解読を進め、翻刻・校訂本文ならびに訳注を一通り作成した。こうして『金蔵論』巻一、五、六のほぼ全容を明らかにし、『金蔵論』の全体像に対する考察を深めることができた。その結果、大谷大学蔵写本巻二の問題点が明らかとなった。また『金蔵論』は仏教類書と類似した形式を持ちながら、類書とは異なる編纂意識に基づくものとして、それをいかに位置づけるかが新たな課題として浮かび上がった。また、『今昔物語集』などの日本仏教文学における『金蔵論』の影響がいっそう明らかになり、『今昔物語集』の編纂過程、また『今昔物語集』編者の意図を推測する手がかりを得ることができた。報告書においては、研究現況、『金蔵論』現存諸本の解題、および敦煌本の翻刻(巻五、六に相当)を掲載した。現在、大谷大学蔵写本における朱や墨で付された訓点の解読を進めており、すべての成果を影印・翻刻とともに近日公刊する予定である。