著者
本田 賢也 KEARNEY SEAN
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-10-12

研究では、微生物叢-宿主相互作用の理解を加速・深化し、健康・医療技術を創出するために、以下の2つのプロジェクトを推進した。1)トリプシンを分解する細菌単離:腸管バリアに関する研究を推進する過程で、炎症性腸疾患患者の便中では、膵由来酵素であるトリプシンの濃度が健常人と比較して高いことを見出した。無菌マウスの便中トリプシン濃度も、SPFマウスと比較して高いことが明らかになった。即ち膵臓から分泌されたトリプシンは、通常小腸においてその役割を終えた後、回盲部の細菌によって分解される必要があるが、炎症性腸疾患ではそうした細菌種が減少して、分解されずに大腸に残存すると考えられた。本研究では、健常ボランティア由来の便サンプルから細菌株を分離培養し、トリプシン分解細菌をスクリーニングし、Paraprevotella claraに属する細菌株がトリプシン分解能がある事がわかった。さらに、同定分離した株をIL10欠損マウスに経口投与すると、腸炎発症を抑制する事がわかった。Paraprevotella claraに由来するトリプシン分解プロテアーゼを同定するため、P. claraのゲノム配列のマイニング、P. claraの発現ライブラリーの作製、P. claraのmutant株の作製を行った。2) 長寿と腸内細菌との関係を調べる目的で慶應義塾大学・百寿総合研究センターと協力し、100名を超える百寿者の腸内細菌叢についてメタゲノムシークエンシングと胆汁酸組成解析を行った。コントロールとしての平均80才前後の高齢者の便サンプルを用いた。百寿者は3-oxo-LCAやallo-iso-LCAといった特殊な胆汁酸を代謝合成する細菌種が多く存在する事がわかった。そこで、3-oxo-LCAやallo-iso-LCAという百寿者に特徴的な胆汁酸代謝胆汁酸代謝を司る細菌株の同定を試み、候補細菌の同定に成功した。