- 著者
-
西中川 駿
松元 光春
本田 道輝
- 出版者
- 鹿児島大学
- 雑誌
- 一般研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1989
わが国の牛,馬の渡来時期とその経路を明らかにするために、遺跡から出土した牛,馬に関わる遺物を全国的に調査し、さらに牛,馬の出土骨、歯を肉眼的、計測学的に検索し、在来牛や在来馬のものと比較を行い、以下の結果を得た。1.牛,馬の骨や歯の出土調査は、各都道府県からの報告や文献ならびに現地調査によって行ったが、牛の出土は、全国で213カ所でみられ九州、関東が多く、馬は475カ所からの出土で、やはり関東が多い。また、時代別では、馬と共に中世が最も多く、ついで平安、古墳、奈良の順である。弥生以前のものも報告されているが、現在のところ東京都伊血子貝塚(弥生中期)の牛頭蓋骨が最も古く、確実な出土例である。2.出土骨の形態は、牛では在来牛である見島牛を口之島牛のものに似ており、また、馬では御崎馬やトカラ馬に類似し、推定体高は128cm前後で、中型馬に属するものが多いが、小型馬も含まれている。3.馬具の出土状況は、古墳時代を中心に調査したが、全国で1265カ所の遺跡から出土しており、地域別では九州の368カ所が最も多く、ついで関東、近畿、中国の順である。また、馬具は時期的には4〜5世期初頭に古墳の副葬品として出現し、5世紀代に分布が広がり、7世紀には古墳の減少と共に、その出土数も激減する。4.埴輪馬の出土は、全国で297カ所にみられるが、関東が圧倒的に多く、170カ所を占め、ついで近畿、九州であり、5世紀末頃から出現し、造形的に最も充実したのは6世紀である。祭祀に用いられたとみられる土馬は、奈良、平安時代に最も多く、全国589カ所のうち、328カ所が近畿地方で、特に平城京、平安京など古都に多い。以上の調査研究から、わが国の牛、馬は、弥生以降に朝鮮半島を経由して渡来し、当時の人々に飼養させていたことが示唆された。