著者
藤沢 武彦 山口 豊 本郷 弘昭 柴 光年 由佐 俊和 崎尾 秀彦 川野 裕 門山 周文
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.251-257, 1986
被引用文献数
4

中枢気道を狭窄ないし閉塞する肺癌切除不能例11例に対して内視鏡下に腫瘍内エタノール注入療法を考案し, その組織固定および止血効果につき臨床的ならびに基礎的検討を行ない, 以下の結果を得た。(1)腫瘍内へ99.5%エタノール注入後は速やかに腫瘍は淡赤白色に固定され, 内視鏡的にやや縮小傾向を示し, さらに出血例では高い止血効果が認められた。注入数日後には腫瘍は壊死に陥っており, 壊死組織内には病理組織学的に生腫瘍細胞はみられなかった。(2)気道内ポリープ状突出腫瘍に対しては本法は極めてよい適応と考えられるが, 壁外腫瘍に対してはその効果はあまり期待できないものと思われた。(3)筋弛緩剤投与下に行なった動物実験による検討では, 中枢気道壁内への99.5%エタノール投与は明らかなPaO_2の低下を示さなかったが, 肺胞内へのエタノールの流入は出血性肺炎を惹起し, PaO_2を有意に低下させた。(4)局所麻酔下に行なう臨床例においては, 腫瘍外に流出した少量のエタノールの一時的な咳嗽発作の惹起をみたのみで, 肺炎, 低酸素血症等の重篤な副作用は全くみられなかった。(5)生化学的検索でもエタノール注入は臨床的にも, また基礎的にも明らかな異常所見は示さなかった。(6)結論として, 腫瘍内エタノール注入療法は適応を選べば, 中枢気道の腫瘍性病変に対して有効な内視鏡下治療の一手段と考える。