著者
橋本 哲夫 本間 悟 兼田 朋廣
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.147-154, 2002-03-05 (Released:2009-03-13)
参考文献数
15

爆心地からほぼ500m地点で採取した長崎被爆瓦の溶融表面に白雲母を検出材として固定し, 原子炉中性子照射に基づくフィショントラック (FT) を観測した. その結果, 残留核分裂核種を含む微粒子 (残存ホットパーティクル, HP) に由来する典型的な星状FTを裏面に比較して数十倍の高密度で観察できた. 20個の星状FT解析から0.72~5.7×107Pu原子がHP中に残存していると見積もれた. 更に, FT長が短いことを基に, HPが瓦表面から少々深い箇所に存在していることを確認した. 一方, 爆心から700mに位置する広島城被爆瓦からは, 石英粒子を抽出し, 再現法を用い青色熱ルミネセンス (BTL) 測定により, 13.0Gyの被曝線量を評価できた. 次いで, 長崎被爆瓦表面のルミネセンスの熱処理特性変化から, 約0.5mmの溶融被膜を除去した部位でも, 1100℃以上の被熱を受けていることを明らかにした. したがって, 残存HPはこの被熱温度をはるかに超えた融点の物質から成っていると判断した.