著者
岩田 勝哉 高村 典子 李 家楽 朱 学宝 三浦 泰蔵
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.341-354, 1992-10-29 (Released:2009-06-12)
参考文献数
18
被引用文献数
1

上海郊外の淀山湖湖畔にある中国綜合養魚系では,ソウギョ(Ctenopharyngodon idella)と食性の異なる他の数種のコイ科の魚を水草を主な飼料として混養し,非常に高い生産をあげている。このシステムでは,養魚池中に多量に排出されるソウギョの糞が直接,間接的に他の魚の餌として重要な役割を果たしていることが推察される。事実,この池から取り上げたフナ(Cayassius auratus)やコクレン(Aristichthys nobilis)の消化管内容物中にはソウギョの糞に由来する水草の断片が多数発見されている。本研究ではソウギョの糞が池の食物連鎖網の中でどのような役割を果たしているかを知るために,セキショウモ属の水草(中国名:苦草,Vallisneria spiralis)の砕片からなるソウギョの糞を養魚池から集め,それを実験室内で分解した。16日間の分解期間の問,糞中の炭素はほぼ一定の速度で減少し,元の含有率の約1/2にまで減少したが,窒素は分解8日後までほとんど減少しなかった。分解過程のソウギョの糞の単位乾燥重量あたりの窒素やアミノ酸含有率は分解8日後までは時間経過に伴って増加し,上限に達した。その後の含有率は分解時間の進行に関わらずほぼ一定値を示した。培養液中に加えた15NH4や3H-チミジンは速やかに分解過程の糞に取り込まれた。分解過程のソウギョの糞は細菌が繁殖するための基質として役立ち,また,付着細菌を含む分解過程の糞全体は池に共存する無脊椎動物や魚の新たな食物資源として重要な役割を果たすことが示唆された。