著者
西廣 淳 赤坂 宗光 山ノ内 崇志 高村 典子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.147-154, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
33
被引用文献数
4

種子や胞子などの散布体を含む湖沼の底質は、地上植生から消失した水生植物を再生させる材料として有用である。ただし、底質中の散布体の死亡などの理由により、地上植生から植物が消失してからの時間経過に伴い再生の可能性が低下する可能性が予測される。しかし、再生可能性と消失からの経過時間との関係については不明な点が多い。そこで、水生植物相の変化と底質中の散布体に関する知見が比較的充実している霞ヶ浦(西浦)と印旛沼を対象に、水生植物の再生の確認の有無と、地上植生での消失からの経過時間との関係を分析した。その結果、地上植生から記録されなくなった植物の再生の可能性は時間経過に伴って急激に低下し、消失から40~50年が経過した種では再生が困難になることが示唆された。散布体バンクの保全は、湖沼の生態系修復において優先すべき課題であると考えられる。
著者
西川 潮 今田 美穂 赤坂 宗光 高村 典子
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.261-266, 2009 (Released:2011-02-16)
参考文献数
13
被引用文献数
1 12

外来種はため池生態系の生物多様性を大きく減少させる主要なストレス要因である。ため池は,氾濫原湿地を棲み場とする生物の避難場所を提供することから,生物多様性の宝庫となっており,従来の灌漑用途だけでなく,生物多様性を含む多面的機能に配慮した管理法が問われている存在である。本研究では,兵庫県の64のため池を対象として社会調査と野外調査を行い,ため池の管理形態が水棲外来動物の出現に及ぼす影響を考察した。野外調査の結果,外来動物では,ブルーギル(Lepomis macrochirus)とアメリカザリガニ(Procambarus clarkii)が出現率およびバイオマスの面でもっとも優占していた。一般に外来魚の駆除対策として池干しが行われるが,予想に反し,ブルーギルの出現は池干しの有無には左右されなかった。一方,アメリカザリガニは池干しをする池に多く出現することが明らかになった。ブルーギルは,ダム水および農業排水を主要な水源とするため池で多く出現することから,ダム湖や用排水路などから再移住してくるものと考えられる。ブルーギルとアメリカザリガニの(排他的)分布が種間関係によって決まっている場合には,一方を駆除すると他方の個体数が増える危険性がある。
著者
松田 裕之 矢原 徹一 竹門 康弘 波田 善夫 長谷川 眞理子 日鷹 一雅 ホーテス シュテファン 角野 康郎 鎌田 麿人 神田 房行 加藤 真 國井 秀伸 向井 宏 村上 興正 中越 信和 中村 太士 中根 周歩 西廣 美穂 西廣 淳 佐藤 利幸 嶋田 正和 塩坂 比奈子 高村 典子 田村 典子 立川 賢一 椿 宜高 津田 智 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-75, 2005-06-30 (Released:2018-02-09)
被引用文献数
22

【自然再生事業の対象】自然再生事業にあたっては, 可能な限り, 生態系を構成する以下のすべての要素を対象にすべきである. 1生物種と生育, 生息場所 2群集構造と種間関係 3生態系の機能 4生態系の繋がり 5人と自然との持続的なかかわり 【基本認識の明確化】自然再生事業を計画するにあたっては, 具体的な事業に着手する前に, 以下の項目についてよく検討し, 基本認識を共有すべきである. 6生物相と生態系の現状を科学的に把握し, 事業の必要性を検討する 7放置したときの将来を予測し, 事業の根拠を吟味する 8時間的, 空間的な広がりや風土を考慮して, 保全, 再生すべき生態系の姿を明らかにする 9自然の遷移をどの程度止めるべきかを検討する 【自然再生事業を進めるうえでの原則】自然再生事業を進めるうえでは, 以下の諸原則を遵守すべきである. 10地域の生物を保全する(地域性保全の原則) 11種の多様性を保全する(種多様性保全の原則) 12種の遺伝的変異性の保全に十分に配慮する(変異性保全の原則) 13自然の回復力を活かし, 人為的改変は必要最小限にとどめる(回復力活用の原則) 14事業に関わる多分野の研究者が協働する(諸分野協働の原則) 15伝統的な技術や文化を尊重する(伝統尊重の原則) 16目標の実現可能性を重視する(実現可能性の原則) 【順応的管理の指針】自然再生事業においては, 不確実性に対処するため, 以下の順応的管理などの手法を活用すべきである. 17事業の透明性を確保し, 第3者による評価を行う 18不可逆的な影響に備えて予防原則を用いる 19将来成否が評価できる具体的な目標を定める 20将来予測の不確実性の程度を示す 21管理計画に用いた仮説をモニタリングで検証し, 状態変化に応じて方策を変える 22用いた仮説の誤りが判明した場合, 中止を含めて速やかに是正する 【合意形成と連携の指針】自然再生事業は, 以下のような手続きと体制によって進めるべきである. 23科学者が適切な役割を果たす 24自然再生事業を担う次世代を育てる 25地域の多様な主体の間で相互に信頼関係を築き, 合意をはかる 26より広範な環境を守る取り組みとの連携をはかる
著者
松崎 慎一郎 西川 潮 高村 典子 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.120, 2005 (Released:2005-03-17)

コイ(Cyprinus carpio)は,長寿命かつ雑食性の底生魚で,遊泳や探餌行動の際に底泥を直接巻き上げて,泥の中の栄養塩や懸濁物質を水中へ回帰させたり(底泥攪乱),直接水中へ栄養塩を排泄したりすることを通じて水質の悪化や水草の減少を招く.また水草を直接捕食する.そのためコイは,IUCN侵略的外来種ワースト100の一種として世界的に問題になっている.日本では様々な水域で見られる在来種であるが,その分布の拡大は放流や養殖など国内移入によるものである.しかしながら,野外操作実験を用いてコイが他の生物群集,特に沈水植物に与える影響を検証した研究例は少ない.本研究は,隔離水界を用いて,コイによる底泥の攪乱および栄養塩の排出が沈水植物と微小動物群集(プランクトン・ベントス)に及ぼす影響を明らかにした.2004年7月,霞ヶ浦に面する国土交通省の実験池(木原)に,隔離水界(2m×2m×水深60~80cm)を設置し,野外操作実験を行った.実験処理区はコイの有無,底泥へのアクセスの可否の2要因からなる4処理区(繰り返し4,合計16隔離水界)にした.コイの底泥へのアクセスは,ネット(2cm格子)を水中に設置することによって遮断した.また実験開始前にすべての隔離水界に沈水植物(リュウノヒゲモ)を植栽し,コイ導入区には15~18cmのコイを各水界に1匹投入した.2ヶ月間の実験の結果(合計3回のサンプリング),底泥へのアクセスの可否にかかわらず,コイがいるだけで水草は著しく減少した.その水草減少のメカニズムは底泥の攪乱だけではなく,栄養塩の排出もその一因であると考えられた.本発表では,コイによる沈水植物の減少のメカニズムを,物理化学的要因(主に栄養塩)や他の生物群集の応答をもとに,総合的に考察する.
著者
生態系管理専門委員会 調査提言部会 西田 貴明 岩崎 雄一 大澤 隆文 小笠原 奨悟 鎌田 磨人 佐々木 章晴 高川 晋一 高村 典子 中村 太士 中静 透 西廣 淳 古田 尚也 松田 裕之 吉田 丈人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2211, (Released:2023-04-30)
参考文献数
93

近年、日本では、急速な人口減少が進む中、自然災害の頻発化、地域経済の停滞、新型コロナウィルス感染症の流行等、様々な社会課題が顕在化している。一方で、SDGs や生物多様性保全に対する社会的関心が高まり、企業経営や事業活動と自然資本の関わりに注目が集まっている。このような状況を受けて、グリーンインフラ、NbS(自然を活用した解決策)、Eco-DRR(生態系を活用した防災減災)、EbA(生態系を活用した気候変動適応)、地域循環共生圏等、自然の資源や機能を活用した社会課題解決に関する概念が幅広い行政計画において取り上げられている。本稿では、日本生態学会の生態系管理専門委員会の委員によりグリーンインフラ・NbS に関する国内外の動向や、これらの考え方を整理するとともに、自然の資源や機能を持続的・効果的に活用するためのポイントを生態学的な観点から議論した。さらに、地域計画や事業の立案・実施に関わる実務家や研究者に向けた「グリーンインフラ・NbS の推進において留意すべき 12 箇条」を提案した。基本原則:1)多様性と冗長性を重視しよう、2)地域性と歴史性を重視しよう。生態系の特性に関する留意点:3)生態系の空間スケールを踏まえよう、4)生態系の変化と動態を踏まえよう、5)生態系の連結性を踏まえよう、6)生態系の機能を踏まえよう、7)生態系サービスの連関を踏まえよう、8)生態系の不確実性を踏まえよう。管理や社会経済との関係に関する留意点:9)ガバナンスのあり方に留意しよう、10)地域経済・社会への波及に留意しよう、11)国際的な目標・関連計画との関係に留意しよう、12)教育・普及に留意しよう。
著者
中武 禎典 高村 典子 佐治 あずみ 宇野 晃一
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.11-20, 2011 (Released:2011-10-01)
参考文献数
48

千葉県成田市北須賀の印旛沼漁業協同組合の敷地に同じように造成された 2 つの植生再生実験池では,一方は沈水植物が再生・繁茂し透明度が高い水界に,他方はアオコが発生し透明度が低い水界になった.後者では前者の 10 倍のスジエビが捕獲された.そこで,実験池内に 8 基の隔離水界を設置し,スジエビの在・不在を操作し,動物プランクトン群集と水質に与える影響を調べた.水質については,実験開始直後からスジエビ在の隔離水界で濁度,懸濁態物質 (SS),全窒素 (TN),全リン (TP),クロロフィル a (Chl. a),および溶存態有機炭素 (DOC) の値が有意に高くなった.ミジンコ類の総密度は,スジエビ在の隔離水界で有意に減少した.逆に,ワムシ類の密度は,有意に増加した.ミジンコ類のうち,大型および遊泳性のミジンコ類 (Daphnia 属,Diaphanosoma 属,Scapholeberis 属)の密度は,スジエビ在の隔離水界で有意に減少したが,小型の底生性ミジンコ類 (Alona 属,Chydorus 属) の密度については,有意差はなかった.ただし,スジエビ在区の栄養塩が実験開始直後に増加したのに比べ,スジエビ不在区でのミジンコ類の密度の増加は,遅めにあらわれた.そのため,スジエビの存在は,まず生物攪拌と栄養塩回帰を促し,その後大型甲殻類動物プランクトンを捕食することによるカスケード効果が加わり水質を悪化させ,浅い湖沼や池のレジームシフトを誘導することが明らかになった.
著者
岩田 勝哉 高村 典子 李 家楽 朱 学宝 三浦 泰蔵
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.341-354, 1992-10-29 (Released:2009-06-12)
参考文献数
18
被引用文献数
1

上海郊外の淀山湖湖畔にある中国綜合養魚系では,ソウギョ(Ctenopharyngodon idella)と食性の異なる他の数種のコイ科の魚を水草を主な飼料として混養し,非常に高い生産をあげている。このシステムでは,養魚池中に多量に排出されるソウギョの糞が直接,間接的に他の魚の餌として重要な役割を果たしていることが推察される。事実,この池から取り上げたフナ(Cayassius auratus)やコクレン(Aristichthys nobilis)の消化管内容物中にはソウギョの糞に由来する水草の断片が多数発見されている。本研究ではソウギョの糞が池の食物連鎖網の中でどのような役割を果たしているかを知るために,セキショウモ属の水草(中国名:苦草,Vallisneria spiralis)の砕片からなるソウギョの糞を養魚池から集め,それを実験室内で分解した。16日間の分解期間の問,糞中の炭素はほぼ一定の速度で減少し,元の含有率の約1/2にまで減少したが,窒素は分解8日後までほとんど減少しなかった。分解過程のソウギョの糞の単位乾燥重量あたりの窒素やアミノ酸含有率は分解8日後までは時間経過に伴って増加し,上限に達した。その後の含有率は分解時間の進行に関わらずほぼ一定値を示した。培養液中に加えた15NH4や3H-チミジンは速やかに分解過程の糞に取り込まれた。分解過程のソウギョの糞は細菌が繁殖するための基質として役立ち,また,付着細菌を含む分解過程の糞全体は池に共存する無脊椎動物や魚の新たな食物資源として重要な役割を果たすことが示唆された。
著者
今井 葉子 角谷 拓 上市 秀雄 高村 典子
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.15-26, 2014-05-30

2010年に開催された第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)で合意された、愛知ターゲットの戦略目標Aにおいて、多様な主体の保全活動への参加の促進が達成すべき目標として掲げられている。この目標を達成し広範で継続的な保全活動を実現するためには、重要な担い手となる、市民の保全活動への参加あるいは保全行動意図をどのように高めるかが重要な課題である。本研究では、社会心理学の分野で用いられる意思決定モデルを援用し「生態系サービスの認知」から「保全に関連強い行動意図」(以下、「行動意図」)へ至る市民の意思決定プロセスを定量的に明らかにすることを目的に、市民を対象とした全国規模のアンケート調査を実施した。既存の社会心理学の意思決定モデルにもとづきアンケートを設計し、4つの「生態系サービス(基盤・調整・供給・文化的サービス)」から恩恵を受けていると感じていること(生態系サービスの認知)と「行動意図」の関係を記述する仮説モデルの検証を行った。インターネットを通じたアンケート調査により、5,225人について得られたデータを元に共分散構造分析を用いて解析した結果、「行動意図」に至る意思決定プロセスは、4つの生態系サービスのうち「文化的サービス」のみのモデルが選択され、有意な関係性が認められた。社会認知に関わる要素では、周囲からの目線である「社会規範」や行動にかかる時間や労力などの「コスト感」がそれぞれ「行動意図」に影響しており、これらの影響度合いは「文化的サービス」からのものより大きかった。居住地に対する「愛着」は「社会規範」や「コスト感」との有意な関係が認められた。さらに、回答者の居住地の都市化の度合いから、回答者を3つにグループ分けして行った解析結果から、上記の関係性は居住環境によらず同様に成立することが示唆された。これらの結果は、個人の保全行動を促すためには、身近な人が行動していることを認知するなどの社会認知を広めることに加えて、生態系サービスのうち特に、「文化的サービス」からの恩恵に対する認知を高めることが重要となる可能性があることを示している。
著者
山ノ内 崇志 赤坂 宗光 角野 康郎 高村 典子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.135-146, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
44
被引用文献数
2

全国の湖沼の水生植物の種多様性を保全することを目的とし、得点化と相補性に基づき優先的に保全すべき湖沼を評価した。文献より植物相の情報が得られた全国361湖沼のうち、近年(2001年以降)の情報が得られた最大74湖沼について解析した。得点化による手法として、現存種数、希少性、残存性の3指標により順位付けを行った。評価の結果、いずれの指標でも類似した湖沼が上位に入る傾向があり、3指標それぞれで20位以内(以下、上位)となった全26湖沼のうち、14湖沼が全ての指標で上位に入った。このことは、一般的に現存種数が多い湖沼は絶滅危惧種が多く、残存性も良好な傾向があることを示すと考えられた。相補性解析では、近年の情報が得られた85種を最低1湖沼で保全する保全目標で評価した。1000回の試行の全てにおいて、20湖沼の選択をもって保全目標を達成し、得点化による指標で抽出された湖沼に加えて、種数は少ないが汽水性や北方系など特徴的な希少種が分布する湖沼が選択された。このことから、現在得られている情報に基づく限りにおいて、相補性解析だけでも現実的な湖沼数の選択が可能と考えられた。保全すべき湖沼の解析対象は近年の情報が得られた湖沼に限ったため、これを補う目的で過去(2000年以前)の情報のみが得られた湖沼を再調査の候補地として評価した。過去の種数および希少性を指標として湖沼を順位付けするとともに、近年の記録が得られていない種(現状不明種)28種の分布記録がある湖沼を抽出した。これにより、過去の記録種数・希少性指標での上位20湖沼と現状不明種指標で抽出された全湖沼として、計61湖沼が調査候補として抽出された。保全優先湖沼として抽出された湖沼は日本各地に分布しており、湖面積や最大水深に偏りは見られなかった。水生植物の保全を考える上では、大湖沼に限らず様々なタイプの湖沼に注目する必要がある。
著者
柚木 秀雄 高村 典子 西廣 淳 中村 圭吾
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.99-111, 2003
参考文献数
52
被引用文献数
4

霞ケ浦では沈水植物群落がほぼ完全に消失しているものの, 胡底の底泥中には沈水植物を含む散布体バンク(propagule bank)が残されていることが確認されている. 本研究では, 散布体バンクを活用して湖岸植生帯を再生する自然再生事業の実施箇所の一つである高浜入り「石川地区」において4基の隔離水界を設置し魚を排除するバイオマニピュレーションを行うことにより隔離水界内に散布体バンクから沈水植物が再生するかどうかを調べた. 隔離水界内では設置して2週間後に枝角類動物プランクトンの密度が11あたり500個体以上に増加し, クロロフィルa量が減少した. そして光の透適量が増加した. 隔離水界を設置して1.5ケ月後に枝角類動物プランクトン密度は減少しバイオマニピュレーションの効果はなくなったが, 隔離水界内には沈水植物のササバモ, クロモ, コカナダモ, オオカナダモと浮葉植物のビシが出現した. 沈水植物が消失した湖沼における小規模な再生の方法として, 散布体バンクの活用と魚類を排除する隔離水界の設置が有効であることが示唆された.
著者
松田 裕之 矢原 徹一 竹門 康弘 波田 善夫 長谷川 眞理子 日鷹 一雅 ホーテス シュテファン 角野 康郎 鎌田 麿人 神田 房行 加藤 真 國井 秀伸 向井 宏 村上 興正 中越 信和 中村 太士 中根 周歩 西廣 美穂 西廣 淳 佐藤 利幸 嶋田 正和 塩坂 比奈子 高村 典子 田村 典子 立川 賢一 椿 宜高 津田 智 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.63-75, 2005-06-30
被引用文献数
20

【自然再生事業の対象】自然再生事業にあたっては, 可能な限り, 生態系を構成する以下のすべての要素を対象にすべきである. 1生物種と生育, 生息場所 2群集構造と種間関係 3生態系の機能 4生態系の繋がり 5人と自然との持続的なかかわり 【基本認識の明確化】自然再生事業を計画するにあたっては, 具体的な事業に着手する前に, 以下の項目についてよく検討し, 基本認識を共有すべきである. 6生物相と生態系の現状を科学的に把握し, 事業の必要性を検討する 7放置したときの将来を予測し, 事業の根拠を吟味する 8時間的, 空間的な広がりや風土を考慮して, 保全, 再生すべき生態系の姿を明らかにする 9自然の遷移をどの程度止めるべきかを検討する 【自然再生事業を進めるうえでの原則】自然再生事業を進めるうえでは, 以下の諸原則を遵守すべきである. 10地域の生物を保全する(地域性保全の原則) 11種の多様性を保全する(種多様性保全の原則) 12種の遺伝的変異性の保全に十分に配慮する(変異性保全の原則) 13自然の回復力を活かし, 人為的改変は必要最小限にとどめる(回復力活用の原則) 14事業に関わる多分野の研究者が協働する(諸分野協働の原則) 15伝統的な技術や文化を尊重する(伝統尊重の原則) 16目標の実現可能性を重視する(実現可能性の原則) 【順応的管理の指針】自然再生事業においては, 不確実性に対処するため, 以下の順応的管理などの手法を活用すべきである. 17事業の透明性を確保し, 第3者による評価を行う 18不可逆的な影響に備えて予防原則を用いる 19将来成否が評価できる具体的な目標を定める 20将来予測の不確実性の程度を示す 21管理計画に用いた仮説をモニタリングで検証し, 状態変化に応じて方策を変える 22用いた仮説の誤りが判明した場合, 中止を含めて速やかに是正する 【合意形成と連携の指針】自然再生事業は, 以下のような手続きと体制によって進めるべきである. 23科学者が適切な役割を果たす 24自然再生事業を担う次世代を育てる 25地域の多様な主体の間で相互に信頼関係を築き, 合意をはかる 26より広範な環境を守る取り組みとの連携をはかる
著者
今井 葉子 野波 寛 高村 典子
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.28, no.Special_Issue, pp.219-224, 2010-02-28 (Released:2011-03-01)
参考文献数
10
被引用文献数
5 10

The purpose of this research is to reveal the effects of values for irrigation pond on the resident's environment-conscious attitude and behavioral intention. A social psychology model was used to analyze the questionnaire data to quantify relationship among values, attitude and behavioral intention. The results indicated that (1) both agricultural and environmental values are greatly related to behavior for environmental conservation, (2) the agricultural value is directly related to the behavioral intention, and,(3) the environmental values is not only directly but indirectly related to the behavior. Our study suggested that instead of the agricultural values the environmental values can increase the behavior for conservation of irrigation pond as natural resources.
著者
畠山 茂久 安野 正之 青木 康展 高村 典子 渡辺 信
出版者
国立公害研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

重金属によって高度に汚染された宮田川を通年調査し, 付着藻類と水生昆虫について以下のような知見を得た. また代表的な重金属耐性種である硅藻やコケやコカゲロウの一種についてはその耐性機構の検討を始めた.重金属汚染地区から単離培養した硅藻と緑藻類は, その付近の非汚染河川から培養した藻類に比較し, 銅, カドミウム, 亜鉛に対しすべて高い耐性(50%光合成活性阻害値)を示した. 汚染地区から採取したラン藻は光合成活性試験では低い重金耐耐性を示し, 実際の河川での耐性機構を更に検討する必要がある. 種によっては汚染区と非汚染区の両地区に生育していたが, 同一種でも汚染区から単離培養したものは非汚染地区から採取したものよりも高い重金属耐性を示した. 重金属耐性種である硅藻の一種, Achnanthes minutissmaを銅を高度に添加した培養液中で3週間培養した. その結果, ほとんどの銅は細胞壁や硅藻の殻に分布し, その他は細胞膜や細胞内小器官の分画に存在した. 細胞内可溶性分画に存在する銅は極めて少なく, この種の耐性機構として, 銅の細胞内侵入防止, 有機酸による無毒化, あるいは銅が有機酸に結合後細胞外に排出されるなど機構が実験結果から示された.宮田川における重金属耐性水生昆虫としては, 数種類のユスリカ(幼虫), コカゲロウの一種Baetis thermicus, オドリバエの幼虫などが明らかにされた. 3種のコカゲロウを人工水路で10ppbのカドミウムに10日間暴露した. 3種はすべて同種度のカドミウムを蓄積したが, 暴露5日後から重金属耐性種のみ, 重金属結合蛋白が誘導され, その量は10日後にかけ増加する事が明らかにされた. 一般に重金属結合蛋白, メタロチオネインは有害金属を体内で結合し無毒化する. 誘導された重金属結合蛋白と本種の重金属耐性の関係を更に明らかにする必要がある.