著者
竹野 忠夫 中村 祐二 朱 学雷 西岡 牧人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

現在,大きな環境問題の原因として挙げられるすすに関して,その生成機構および抑制方法は見つかっておらず,未だ不明な点が多い.すすはNOxと並ぶ2大燃焼排出物であり,火炎中のその生成機構を理解することは我々人類にとって重要な課題である.これまでの研究報告によれば,すすはその前駆物質であるPAH(多環芳香族炭化水素)からできるとされているが,PAHの生成機構さえも十分に理解されていない部分が多い.そこで本研究では,対向流拡散火炎中を対象として,数値計算および実験を通じてPAHの生成機構を理解することを目的とする.まず平成10年度においては,約100種の成分と正逆500組の素反応を考慮したHai-Wangにより開発された化学反応機構を用いた数値計算により,PAHの中で最も重要な働きを示すベンゼン生成に関する知見を得た.その結果,C3系の反応物がPAHの基であるベンゼン環の生成に最も顕著であることがわかった.平成11年度においては,対向流拡散火炎中のベンゼンおよびその生成に関わると言われているC3系およびC4系の成分に着目し,それらの濃度測定をGC/MS(ガスクロマトグラフィー/質量分析計)を用いて行った.また得られた実験結果と数値計算で得た知見との比較・検証を行った.その結果,数値計算ではベンゼンおよびC3,C4系炭化水素の量を約半分以下にしか見積もらないことがわかった.また,ベンゼン生成領域は数値計算よりも定温領域に移り,それがすす発生に関係した影響であることも指摘できた.しかしGC/MSで得られる情報もまだ十分ではないので,上記で推測されたすす生成に関する物理を確実に述べるには,実験装置の工夫,または数値計算において別の反応モデルを用い,より総合的な評価をする必要がある.