著者
杉 達紀
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

TgMAPK1がトキソプラズマの生態に果たす役割を解析するために、TgMAPK1の染色体位置上に変異を導入した。発現誘導が可能である、Destabilizing Domain (DD)タグをタンパク質N-末に融合した形で発現するように組換に成功した。DDタグが付加されたTgMAPK1はDDタグの低分子リガンドであるshield-1存在下において、濃度依存的にタンパク質の蓄積量の増加した。Shield-1の処理により強発現となったDDタグ融合TgMAPK1は原虫の生育を止めたことから、DD-TgMAPK1がDDタグの存在により機能を損なっていることが示唆された。HAタグをN末に付加したTgMAPK1に種々の変異を導入した配列により、原虫が持つTgMAPK1位置でノックインした原虫を作成した。低分子化合物であるBKIの一つである1NM-PP1による感受性が変化する感受性決定アミノ酸位置が、G, A, T, F, Yのそれぞれのアミノ酸に置換された変異体を作出した。Alanineを感受性決定アミノ酸に持つTgMAPK1をコードする組換原虫RH/TgMAPK1Aは、1NM-PP1により低濃度(100nM以下)で増殖が阻止されたのに対して、Tyr。sineを持つTgMAPK1をコードする組換原虫RH/TgMAPK1Yは耐性を獲得していた。1NM-PP1処理時において、核のDNA量の変化についてフローサイトメトリーで観察した。その結果RH/TgMAPK1AとRH/TgMAPK1Yともにゲノム複製の完了を示す細胞内DNA量2Nまでは相違なく進んだが、RH/TgMAPK1A (1NM-PP1感受性株)においては核分裂および細胞分裂期の進行を示す1NのDNA量を持った細胞が減少した。これは、TgMAPK1がDNA合成以降の細胞周期の中でチェックポイントとして働いていることを示唆している。