著者
松山 毅彦 杉原 義信 岩崎 克彦 藤井 明和
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.41, no.10, pp.1517-1522, 1989

妊娠前に開放性腎生検によりIgA腎症と診断された15症例の妊娠・分娩の臨床経過の観察や管理等からそれらにおける危険因子について若干の知見を得た. IgA腎症の病型は野本らの定義に従い, Grade I~Grade IVの4型に分類した. 妊娠経過は浮腫, 蛋白尿, 高血圧の出現の有無および程度より測定し, 判定基準は日本産科婦人科学会妊娠中毒症問題委員会分類の判定基準によつた. 検査成績は末梢血所見, 出血凝固能, 血液生化学検査, 尿検査, 腎機能検査等を指標とした. 尼ヶ崎らの正常妊娠・分娩を期待できる基準と異常妊娠・分娩を来す可能性が大きい基準も参考にした. Grade Iの3症例は良好な経過をとつた. Grade II (9症例)は全例尼ヶ崎らの正常分娩を期待できる基準を満たしたが, 妊娠末期には7例に蛋白尿が出現し, 浮腫は1例に, 高血圧は2例に認められ, 産科・内科の管理をきびしくする必要があつた. Grade III (3症例)は尼ヶ崎らの異常妊娠・分娩を来す可能性の高い基準にあてはまり, 1例に蛋白尿が初期より認められたが危惧された産科的異常の発現や腎機能の増悪は認められなかつた. また分娩は経膣分娩12例, 帝王切開3例であつたが胎内死亡の1例を除き健児を得た. 以上の検討結果よりGrade IIの中にも妊娠継続が不可能となる可能性のある症例があり, Grade III の中にも妊娠継続が必ずしも不可能でない症例が混在していることが明らかになつた. 妊娠前の腎生検所見だけでなく,腎機能の評価を十分に行ない複数の妊娠可否基準を参考にし, さらに妊娠中の腎機能の悪化徴候や中毒症症状の出現の有無を見極め, 総合的に判定することが必要であると思われた.