著者
平園 賢一 篠塚 孝男 藤井 明和 堀 貞明 伊藤 仁 川井 健司 佐藤 慎吉 長村 義之
出版者
特定非営利活動法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.1069-1074, 1992
被引用文献数
3

パルボウイルスB19 (以下B19) は伝染性紅斑, いわゆるリンゴ病の病原体であり, 成人でも風邪様症状や関節炎を起こし, 特に妊婦が妊娠初期から中期にかけて感染すると胎児水腫などを引き起こし流早死産になることが明らかになってきた. 現在, 産科的に風疹やサイトメガロウイルスにつぐ重要なウイルスとして注目されている.<BR>〈症例〉胎齢25週2日の男児死産児. 母親は28歳, 保母. 妊娠10週頃に伝染性紅斑に患, 妊娠22週の超音波検査にて胎児水腫を指摘され当院産科を受診し, B19感染による非免疫性胎児水腫が疑われた. 25週2日子宮内胎児死亡のため人工中絶となった.<BR>〈剖検〉全身浮腫と著明な胸腹水の貯留を認めたが外表奇形, 内臓奇形はみられなかった. 剖検時の腹水細胞診では細胞の変性強く核内封入体を有した感染細胞は明らかでなかったが, 酵素抗体間接法 (B19に対するモノクロナール抗体) により感染細胞の細胞質に特異抗原を認めた. また諸臓器 (肝, 脾, 肺, 腎, 骨髄, 胎盤など) に核内封入体を有する感染赤芽球が多数認められ, 酵素抗体法にて陽性が認められた. また胎児胸腹水のPCR法分析および組織電顕にてB19を確認した.<BR>〈考察〉本邦の妊娠可能女性の50%から80%はB19抗体陰性といわれており, 感染時に定形的な紅斑を示さないことが多いとされる. またB19IgM陽性妊婦の約10%に胎児水腫が発症したとの報告があり, その致死率も高い. 早期診断のためにも簡便でかつ臨床応用可能な細胞診は有用であると思われた.
著者
松山 毅彦 杉原 義信 岩崎 克彦 藤井 明和
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.41, no.10, pp.1517-1522, 1989

妊娠前に開放性腎生検によりIgA腎症と診断された15症例の妊娠・分娩の臨床経過の観察や管理等からそれらにおける危険因子について若干の知見を得た. IgA腎症の病型は野本らの定義に従い, Grade I~Grade IVの4型に分類した. 妊娠経過は浮腫, 蛋白尿, 高血圧の出現の有無および程度より測定し, 判定基準は日本産科婦人科学会妊娠中毒症問題委員会分類の判定基準によつた. 検査成績は末梢血所見, 出血凝固能, 血液生化学検査, 尿検査, 腎機能検査等を指標とした. 尼ヶ崎らの正常妊娠・分娩を期待できる基準と異常妊娠・分娩を来す可能性が大きい基準も参考にした. Grade Iの3症例は良好な経過をとつた. Grade II (9症例)は全例尼ヶ崎らの正常分娩を期待できる基準を満たしたが, 妊娠末期には7例に蛋白尿が出現し, 浮腫は1例に, 高血圧は2例に認められ, 産科・内科の管理をきびしくする必要があつた. Grade III (3症例)は尼ヶ崎らの異常妊娠・分娩を来す可能性の高い基準にあてはまり, 1例に蛋白尿が初期より認められたが危惧された産科的異常の発現や腎機能の増悪は認められなかつた. また分娩は経膣分娩12例, 帝王切開3例であつたが胎内死亡の1例を除き健児を得た. 以上の検討結果よりGrade IIの中にも妊娠継続が不可能となる可能性のある症例があり, Grade III の中にも妊娠継続が必ずしも不可能でない症例が混在していることが明らかになつた. 妊娠前の腎生検所見だけでなく,腎機能の評価を十分に行ない複数の妊娠可否基準を参考にし, さらに妊娠中の腎機能の悪化徴候や中毒症症状の出現の有無を見極め, 総合的に判定することが必要であると思われた.
著者
保坂 隆 大須賀 等 狩野 力八郎 藤井 明和
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.523-533, 1987-10-01
被引用文献数
1

子宮摘出術の精神的影響を検討するために43人の患者を対象として調査した。対象は手術前日に精神科的面接を受け心理テスト(CMI, YGテスト)が施行された。精神科的面接は中立性, 客観性を保つために著者らのうち2名の精神科医が同席して行われた。さらに, 婦人科的診察・術式・術後合併症などについて医師からどう説明されたか, また, 過去の喪失体験に対する反応や女性性, 月経, 月経停止に対する態度など, あらかじめ決められた質問が用意された semi-structured interview の形式をとった。さらに術後7日目にも特に喪失体験に対する急性反応に焦点をあてた精神科的面接が施行された。また, 約2年後に術後の影響を調べるために心理テストと, 特別に作成された調査用紙が郵送された。回答が得られすべての項目に関するデータが揃ったのは35人(81.4%)で, 以後はこの35人について検討された。1人の離婚女性と2人の未婚女性を除けばすべて既婚者で出産経験者であった。過去に神経症的傾向のある2人は術後一時的に症状増悪がみられたが, 両者とも既婚者で2人以上の子供がいた。さらに両者とも婦人科的診断は良性の子宮筋腫であった。また, 附属器切除を施行した52歳の主婦ではエストロゲン欠乏によると思われる灼熱感がみれらた。さらに一時的に腰痛を自覚した患者も4名いた。一般に, 子宮摘出術後に病的な精神科的反応を惹起する危険因子は, (1)若年女性であること, (2)精神科既往歴があること, (3)家族歴に精神科疾患があること, (4)子供がいないか少なくて, 妊娠を希望していること, (5)夫婦関係が障害または破綻していること, (6)器質的疾患がないこと, (7)術前に不自然なまでに安定していること, などである。しかし, 本研究の結果は, 子宮摘出後には種々の精神症状がみられるという従来からの仮説を支持することはできなかった。その理由のひとつとして考えられるが, 本研究より驚くほど多くの患者が自分の受ける手術の術式や術後合併症について知らなかったり, また知ろうとしていないことが明らかになった。この「否認」という防衛機制が, わが国における子宮摘出術患者において術前の緊張や不安を軽減したり, 術後の精神科的合併症を回避するのに有効であるように思えた。