- 著者
-
杉山 伸也
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社會經濟史學 (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.80, no.3, pp.297-313, 2014-11-25
本稿は,『東京市統計年表』,および東京市役所,日本銀行,東京質屋組合等による質屋に関する調査を利用して,1906〜38年における東京市の質屋業者数と経営規模,貸出・受戻・流質額および口数,貸出金額別内訳,市区別の経営状況などの主要指標について考察したものである。質屋業は徳川時代に確立していた業種で,幕末・維新期の混乱で減少したあと増加し,ピーク時の1918年には1,334店に達したが,1923年の関東大震災で約3分の1に激減した。質屋は,動産を担保に庶民向けの短期の小口金融をおこなう地域住民密着型の金融機関で,運転資本規模は2〜3万円の小規模ビジネスであり,大半が個人・家族経営であった。質屋の主要業務は質物の鑑定評価と入質による利子の取得で,利率は質屋取締法で30〜48%に決められていた。質屋の経営は1922年までは順調であったが,23年の震災で大打撃をうけた。その後若干回復をみたものの,1930年代初めの不況を機に経営の小規模化と質物の小口化がすすみ,資本回転率は1920年代の年3回転から30年代には2回転に減少して利益率は低下し,質屋経営は悪化した。