著者
杉本 究
出版者
同志社大学
雑誌
同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.73-91, 2006-07

論説(Article)近時の司法制度改革の一環として、訴訟手続によらず、公正な第三者たる専門家の活用により紛争の実情に即した解決を図ろうとする裁判外紛争処理手続(Alternative Dispute Resolution;ADR)の拡充・活性化が必要とされている。その潮流からすれば、事業再生版の裁判外紛争処理手続と言える私的整理(事業再生ADR)が、その現場においても利害関係者の総意では圧倒的に好まれる傾向とも相俟って、将来的にはさらにその意義並びに重要性が増すであろうと考えられる。本稿では、まず、筆者のアドバイザー業務経験に基づき、実務的視座からする私的整理の作業工程並びに作業負担について時系列的に俯瞰するとともに、私的整理、法的整理及び私的整理と法的整理の連続性にかかる課題について検証した。次に、以上の検証結果を踏まえつつ、事業再生ADR活用に向けての一試論として、ADR基本法に定める認証機関に関して、その導入効果も含めた政策提言を行うとともに事業再生ADRの機能について検討した。認証機関に認定される基準としては、英国のインソルベンシー・プラクティショナー(Insolvency Practitioner)を範とした資格制の導入により、当該人材を擁する民間事業者が認証機関として認定されることとし、その機関活用の効果として、認証機関が関与・策定した私的整理の場合は、仮に法的整理に移行した場合においても、私的整理の過程で合意形成が可能となった部分について一定の法的効果を供与する仕組みが検討に値する。そして、事業再生ADRの機能としては、(1)コスト削減機能(2)早期着手機能(3)権利調整機能を有することが期待され、その活性化は事業再生全体の効率性・実効性に資するものと言えよう。