著者
石黒 聡士 鈴木 康弘 杉村 俊郎 佐野 滋樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.76, 2007

<BR>1.はじめに<br> スマトラ沖地震に代表されるような大規模災害の直後には、迅速な状況把握が必要である。しかし、特に災害前の状況と災害直後の状況を把握できるデータは、通常限定される。その中で、高解像度衛星による画像は、広範囲にわたって均質で定量的な解析が可能である。特に、高解像度衛星によって撮影されるステレオペアの3次元計測によって、高精度に標高を計測できることが報告されている。このため、高解像度衛星画像は、地震性地殻変動量の計測など、変動地形解析において有効であることが期待される。<br> そこで本研究では、2004年スマトラ沖地震の直後に撮影されたIKONOSとQuickBirdによる単画像を複合して用い、地震性隆起量を計測する。また、異種の高解像度衛星画像を複合させる手法の有効性について論じる。<br><BR>2.IKONOSとQuickBirdを複合させた地震性地殻変動計測 <br> 2004年スマトラ沖地震の直後に撮影されたIKONOS(解像度1m)とQuickBird(同0.6m)による単画像を組み合わせて、地震時のAndaman諸島北西部における地震性地殻変動計測を行った。この地域では地震時に隆起が起きたことが報告されている。しかし、地震後の短期間に再び沈降する余効変動が観測されているため、地震直後における最大隆起量を計測することは、これまで困難であった。<br> 我々はまず、地震後15日目に撮影されたIKONOS画像と、9日目に撮影されたQuickBirdの画像を用いてステレオ計測し、隆起によって干上がった裾礁のDSMを作成した。このDSMの精度は、標準偏差で0.7m程度であった。<br> 次に、このDSMに、地震前に撮影されたQuickBird画像に写っている汀線をGIS上で重ねあわせ、旧汀線の地震直後の高度を計測した。この結果、Andaman諸島北西岸では、スマトラ地震後の10日前後では2.15m(±0.7m)隆起していたことを明らかにすることができた。<br><BR>3.異種の高解像度衛星画像を複合させる手法の有効性<br> 災害の発生直後において入手可能な衛星画像は、1.災害前に撮影された単画像、2.災害発生後に複数の衛星が集中的に繰り返し撮影した画像である。災害発生直後には需要が高まるため、各社の衛星による撮影頻度が急激に増加する。右図に、Andaman諸島において、スマトラ沖地震前後で新規に撮影されたQuickBird画像のアーカイブ総数の増加を示した。ただし、2の画像でも、ステレオ撮影は特別なリクエストがない限り撮影されない。実際に、図に示した例でも、この期間中にQuickBirdによるステレオ撮影は一度もなされなかった。<br> このような背景の中、災害直後の緊急調査においては、入手可能なデータを最大限に活用し、有意な情報を引き出すことが求められる。2の画像を使用するメリットは、各社の異なる種類の衛星が様々な角度から撮影しているため、これらを複合することでステレオペアを作成でき、従って地形モデルを作成できることである。さらに、短期間に繰り返し撮影されているために、比較的高頻度で時間的変化を把握できる。一方、1の画像は頻繁に撮影されていないため、ステレオペアの作成は多くの場合で不可能である。しかし、地殻変動前の汀線の位置など、地殻変動量の計測の際に基準となる地理的事象を把握することができる。<br> 上述の2の画像を用いて合成したステレオペアから作成した地震後の地形モデルに、1の画像から読み取った汀線などの地理的事象を重ねあわせて比較することで、地震性隆起量の計測が可能である。さらに、2の画像が頻繁に撮影されることを利用すれば、2の画像からも地理的事象を読み取ることで、地震後の余効変動による沈降量を、複数の時点で計測できる。<br> 以上のように、異種の衛星画像を複合させることが、地震性地殻変動の計測に有効であることを示した。しかし、本手法では1の画像を用いて地震前の地形モデルを作成できないため、沈降域において地震性沈降量を計測することができない。また、局所的に高い精度でDSMの作成が可能である一方で、絶対的な位置の精度は衛星の定位モデルに依存する。このため、たとえば他のソースから作成されたDSMの差し引きは、単純には行うことができないことなどが、本手法の限界として挙げられる。<br>