著者
大村 裕 小野 武年 杉森 睦之 中村 勉 福田 隆一
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.281-294, 1974-04-10

Ⅰ.満腹中枢と摂食中枢の関係 哺乳類の摂食行動のもとになるのは,視床下部に存在する摂食中枢のある外側野(lateral hypothalamic area,LH)と満腹中枢のある腹内側核(ventromedial hypothalamic nucleus,VMH)のニューロン活動である。両中枢のニューロン活動を同時に記録してみると,相反的なことが多い。すなわち,一方の中枢のニューロン活動が上昇しているときは,他方のそれは低下している(Oomuraら,1967 a)。また人工的にVMHを電気刺激してみるとLHのニューロン活動は抑制され,逆にLHを刺激すればVMHのニューロン活動は抑制される。しかも抑制の期間は相等に長い。この相反性は動物が睡眠や覚醒,餌を探す,餌を摂るなどの各種の行動下でも同様である(Oomuraら,1969)。たとえばネコの頭蓋骨に双極ポジショナー(Oomuraら,1967 b)を取りつけて満腹および摂食の両中枢内にタングステン電極をそれぞれ1本ずつ入れ,同時に両中枢のニューロン活動を記録してみる。図1Aに示すように,ネコが徐波睡眠のとき,VMHニューロンの活動は高く17Hzで放電しているが,LHでは6Hzで低い。