著者
杉浦 邦彦
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.293-308, 1974

1)伊勢道路は1893年頃,3.0m幅の小さな県道であったが1965年,日本道路公団により幅6.5mのアスファルト舗装道として開通した。当時は1日平均1500台の自動車通過をみたが最近はその3.5倍近い5300台の通行量となった。これにともない野鳥の斃死体が道路上で頻度高く発見されるようになったため,これをとりまとめ解析してみた。<br>2)神宮林は一般に暖帯林の天然林であると考えられているが大部分は人工林である。ところが伊勢道路の通過する個所は常緑広葉樹が主体となり,落葉広葉樹は極くわずか点在している。いわゆる天然林が五十鈴川の上流に沿って細長く続き,この天然林の中を伊勢道路が走っている。<br>3)野鳥の事故件数を年次的変動でみると.その相対被害優占度(相対被害数/総合計相対被害数×100)は開通当時の1965年よりも1972年の方が大きく,その値は約3.2倍となっている。これは自動車の通過数量の約3.5倍と同じに近い数で野鳥の被害数と自動車の通過数とは比例しているようである。<br>4)10科18種に及ぶ被害野鳥は72.2%が留鳥,16.7%が冬鳥で両者合せて89%の多くになる。そしてこの野鳥の被害数全体の1/3が若鳥であることは注目させられる。また,被害野鳥はジョウビタキの21.4%を最高に,ホオジロの14.3%と続き,実にヒタキ科に属するものは全体の45.2%にも達する。これは野鳥の生活環境による例えば採餌,ねぐらなどの習性からくる影響によるものではないだろうか。<br>5)被害野鳥の季節的傾向については3月の19%を最高に2月,4月,11月,12月,1月の10%。台で,11月から翌年4月の6カ月間に87%が衝突被害を受けており,夏季より冬季の方が被害は約3倍ほど多くなっている。これは神宮林内の野鳥生息密度数と関連しているようである。<br>6)被害野鳥の死亡原因を明確なものだけとってみると,頭部内出血が33%で最も多く,道路の左右いずれの方からも等しい数の頻度で衝突しているようである。衝突の激度については内臓の内出血を14%も数えるが,この中には大動脈切断や肝臓破裂などあって衝突時のスピードのすごさが推察される。<br>7)被害野鳥が集中して発見される地域性については伊勢道路と殆んど直角に交差する,延長約20m以上,幅2~5mの小谷の吐出口に多いか,旧県道と伊勢道路が交差する幅広い無立木地の交差点附近にウグイス,シロハラなど低空移動性の野鳥が被害を受け易い。これをまとめると伊勢道路の神宮林内約8kmのうち9個所にそれが顕著に現われている。<br>8)目撃例では野鳥が自動車に驚いて逃げるときのスピードが大体30~60km/hである。したがって自動車のスピード60km/hでは衝突被害は現れるが,最高50km/hではその限界になるようである。野鳥に逃避準備のできないときは30km/hでも危険性はあるが,普通40km/hのスピードで自動車の運転をすれば山間部を走る道路としては野鳥に危害を及ぼすことはないようである。