著者
仲田 善啓 井上 敦子 杉田 小与里
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.61-68, 1999 (Released:2007-01-30)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

シグマ(σ)受容体は中枢神経系に存在し,ハロペリドールやコカインなどの向精神薬物がそのリガンドになりうること,精神分裂病患者で受容体数の減少および遺伝子の多型が観察されたことから,精神機能に関与していることが示唆されている.しかしσ受容体の生理的機能については未だ不明な点が多く,思索の域をでない状態であるといえる.σ受容体には2つのサブタイプ(σ1,σ2)が見い出され,σ1受容体はそのcDNAとゲノムが複数の動物種でクローニングされている.σ受容体の中枢神経系での機能を明らかにする目的で,モルモットおよびラットにハロペリドールを慢性投与し,σ受容体結合活性とσ1受容体をコードするmRNAを定量解析した.その結果,ハロペリドールは,σ1,σ2両受容体に同等の親和性を有しているにもかかわらず,慢性投与により,σ1受容体結合量は減少したが,σ2受容体結合量は変化しなかった.この結合量減少作用はモルモットにおいてラットより著しく大きく観察された.また,モルモットとラットにおいてσ1受容体mRNAはハロペリドール慢性投与により影響を受けないことが明らかになった.以上の結果より,σ1とσ2受容体はin vivoにおいて異なった機構により制御されている可能性が考えられた.また,ハロペリドールによるσ1受容体結合量の減少は受容体の遺伝子からの転写活性減少によるものではないことがわかった.さらに,モルモットとラットのσ受容体に対するハロペリドールの作用の相違から,ハロペリドール投与による臨床効果を考える上で代謝産物のσ受容体への影響を考慮すべきであることが示唆された.