著者
井上 敦子 仲田 義啓
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.137-140, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
28
被引用文献数
2 3

サブスタンスPを代表とする神経ペプチドは,刺激に応じて一次知覚神経から遊離され,脊髄後角において二次神経に痛み情報を伝達すると同時に,末梢組織で遊離された神経ペプチドは,免疫担当細胞,肥満細胞,血管平滑筋細胞に作用して神経因性炎症反応を引き起こす.我々は,一次知覚神経の活性化の解析モデルとして脊髄後根神経節初代培養細胞(培養DRG細胞)を用い,サブスタンスPの動態(生合成と遊離)について炎症性メディエータの影響とその作用メカニズムを検討している.炎症反応により組織局所や神経支配する一次知覚神経のサブスタンスP含量は増加する.培養DRG細胞を炎症性サイトカインであるインターロイキン1βで処置すると,数時間でサブスタンスPが遊離され,数日間の処置で細胞内サブスタンP前駆体PPT mRNAレベルの増加が観察された.また,発痛物質でもあるブラジキニンで培養DRG細胞を前処置すると,カプサイシンによるカルシウムの取り込みを増加したことから,一次知覚神経の興奮性を促進することがわかった.また,数時間のブラジキニン処置でカプサイシンによるサブスタンスP遊離が増強された.インターロイキン1βとブラジキニンの長時間処置によるサブスタンスP遊離に及ぼす影響はシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害薬で抑制され,インターロイキン1βとブラジキニンにより培養DRG細胞においてCOX-2の発現誘導が観察された.サイトカインなどの炎症性メディエータは,種々神経ペプチドの動態に影響を及ぼすことによって炎症反応,炎症性痛覚過敏を引き起こすと考えられる.その作用機序および細胞内伝達経路を解明することは病的痛覚過敏の制御に極めて重要であると思われる.
著者
井上 敦子 仲田 義啓
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.112, no.6, pp.351-361, 1998-12-01 (Released:2007-01-30)
参考文献数
46

There have been many efforts to develop novel antipsychotic drugs with improved clinical efficacy and reduced side effects such as extrapyramidal side effects and hyperprolactinemia. Recent evidences from studies on the effects of novel antipsychotic drugs such as clozapine on neurotransmitter receptors are prompting reconsideration of the dopaminergic hypothesis of schizophrenia. This paper gives an overview of the current understanding, including our data, of the effects of several antipsychotics on dopamine receptor subtypes. The recent cloning of dopamine receptors has revealed that multiple dopamine receptor subtypes are generated from at least five distinct dopamine receptor genes. Aripiprazole, a candidate for a novel antipsychotic, has an antagonistic activity against dopamine D2 receptors with a high affinity, but has a weaker potency to up-regulate D2 receptors than haloperidol in the striatum and inhibitory effects on D2-receptor binding activities and mRNA in the pituitary, when it is chronically administrated to rats. Thus the occupancy or influences in D2 receptors in the striatum are involved in the extrapyramidal side effects of typical antipsychotic drugs. These studies provide new leads to understand the pathophysiology and causes of schizophrenia and to develop more effective and safe methods of treatment.
著者
仲田 善啓 井上 敦子 杉田 小与里
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.61-68, 1999 (Released:2007-01-30)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

シグマ(σ)受容体は中枢神経系に存在し,ハロペリドールやコカインなどの向精神薬物がそのリガンドになりうること,精神分裂病患者で受容体数の減少および遺伝子の多型が観察されたことから,精神機能に関与していることが示唆されている.しかしσ受容体の生理的機能については未だ不明な点が多く,思索の域をでない状態であるといえる.σ受容体には2つのサブタイプ(σ1,σ2)が見い出され,σ1受容体はそのcDNAとゲノムが複数の動物種でクローニングされている.σ受容体の中枢神経系での機能を明らかにする目的で,モルモットおよびラットにハロペリドールを慢性投与し,σ受容体結合活性とσ1受容体をコードするmRNAを定量解析した.その結果,ハロペリドールは,σ1,σ2両受容体に同等の親和性を有しているにもかかわらず,慢性投与により,σ1受容体結合量は減少したが,σ2受容体結合量は変化しなかった.この結合量減少作用はモルモットにおいてラットより著しく大きく観察された.また,モルモットとラットにおいてσ1受容体mRNAはハロペリドール慢性投与により影響を受けないことが明らかになった.以上の結果より,σ1とσ2受容体はin vivoにおいて異なった機構により制御されている可能性が考えられた.また,ハロペリドールによるσ1受容体結合量の減少は受容体の遺伝子からの転写活性減少によるものではないことがわかった.さらに,モルモットとラットのσ受容体に対するハロペリドールの作用の相違から,ハロペリドール投与による臨床効果を考える上で代謝産物のσ受容体への影響を考慮すべきであることが示唆された.
著者
中村 光 岩永 可奈子 境 泉洋 下津 咲絵 井上 敦子 植田 健太 嶋田 洋徳 坂野 雄二 金沢 吉展
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION FOR MENTAL HEALTH
雑誌
こころの健康 : 日本精神衛生学会誌 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.26-34, 2006-12-30

本研究の目的は, ひきこもり状態にある人を持つ家族の受療行動に影響を及ぼす要因を明らかにすることであった。ひきこもり親の会 (セルフヘルプグループ) に参加している家族153名から自記式質問紙による回答を得た。その結果, 以下のことが明らかにされた。(1) 家族の85.6%がひきこもり状態を改善するために相談機関を必要としている。(2) 精神疾患に対する偏見が家族の受療行動を阻害する可能性がある。(3) 相談機関の存在や所在地を知っていることが, 家族の受療行動を促進する可能性がある。(4) 家族にとって保健所や精神保健福祉センター, 電子メールによる相談は利用しにくく, 反対に電話相談は利用しやすい可能性がある。(5) ひきこもり状態にある本人が相談機関来所を拒否すると, 家族の受療行動を阻害する可能性がある。調査結果の検討を通して, ひきこもり状態にある人を持つ家族の受療行動を促進する方法が議論された。