著者
杉谷 幸太
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.18-34, 2011-11-25

80年代の中国文学・映画において,「知識青年」作家たちは革命中国の支配的叙述を脱構築するために「農村」の「ルーツ」に注目し始めた。だがレイ・チョウは,この「プリミティヴへの情熱」が,作者の意図とは逆に,共産党の支配的イデオロギーと共犯関係を持つことを批判している。この難問に直面した「知識青年」作家の李鋭は,『厚土』において知識青年の農村共同体からの疎外感を描くことで,意識的にこの共犯関係を回避しようとした。陳凱歌の『黄色い大地』との比較からは,『厚土』は事実上,革命中国の歴史叙述と,対抗的な「農村中国」の叙述が共通に持っている,農村に対する搾取性を指摘していることが明らかになる。