著者
杉谷 隆
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.195-202, 1987-12-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

模型水路実験の結果では,河岸段丘は浸食状態下における網状流路の砂礫堆から形成される.これらの段丘は,実験条件の変化がきわめて緩慢である場合には,しばしばすぐに浸食されてしまうか,または新たに形成される砂礫堆によって覆われてしまう.本稿は,このような段丘形成過程を日光・根通り川の完新世の段丘について検証した. 根通り川河谷に発達する段丘面は,古いものから順にT1, T2, T3, T4, T5面に区分される.T1およびT3面はそれぞれ最終氷期末期およびヒプシサーマル期に形成された堆積段丘面であり,それ以外はこれらを下刻して形成された面である.T2面は,最終氷期末期から完新世にいたる過渡期の急激な浸食営力によって形成されたものである.一方,T4およびT5面は,次の2つの理由によって実験結果と調和的である. (1) T4およびT5面上の旧河道・旧砂礫堆の分布は,実験流路における分布パターンと酷似している. (2) T4, T5面および現河床の縦断曲線は,実験流路において見られる顕著な波動を重畳させている. これらの段丘面の比高は,上述のような河床の波動の振幅の大きさに入ってしまうため,段丘面は実験において観察されたように,浸食されたり新たに形成された砂礫堆によって覆われてしまいやすい.これらの状況は,ヒプシサーマル期以後には急激な下刻を生じさせるほどの流況の変化がなかったことを示している.