著者
李 冬木
出版者
佛教大学文学部
雑誌
文学部論集 (ISSN:09189416)
巻号頁・発行日
no.103, pp.1-25, 2019-03-01

これまでの「狂人学史」においては、「狂人」言説自体を作品の人物精神史の背景として検討する研究が欠如していた。本論は「狂人」の用法、社会のメディア状況、「ニーチェ」、「無政府主義」、文学創作及び時代精神の特性など複眼的視点から、「狂人日記」誕生の以前に「狂人」の言説史が存在したことを確認し、この状況を前提として「狂人」誕生の足跡を考察した。また周樹人は「狂人」の雛形を携えて日本から帰国したが、この「狂人」は彼自身を形成した過程でできあがったもので、いわば彼の記憶にある「真の人間」と血を分けた兄弟であったと考える。「狂人」の誕生は、「真の人間」の誕生の必然性を宣告したもので、「狂人日記」は本質的に「人」の誕生を宣言した作品であったと結論づけた。狂人言説狂人日記魯迅ニーチェ真の人間