著者
李 嗣堯
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.49-61, 2013-02-21

台・中間に2010年6月に締結された「両岸経済協力枠組み協議(Economic Cooperation Framework Agreement: 略称ECFA)」は台湾経済・産業にもたらす影響が極めて大きいということで注目が集まった。これまでのECFAに関する研究は, 「ECFAの必要性」, 「ECFAの政治的リスク」そして「ECFAの台湾経済への影響」等をめぐってそれぞれの内容を検討したうえ, その賛否についての見解を述べるという形式が主であった。これに対して本稿は, ECFAの歴史的背景, ECFAの内容, そして台中双方にとってのECFAの狙い所の三つの側面に注目して馬英久政権が新たに展開した「台中経済連携強化」の意義を明らかにする試みである。 本研究の検討によって以下の5点の結論にまとめられる。(1)ECFA は特殊なFTAではあるが, 両岸経済の統合に寄与することに違いないこと。(2)経済統合といって台湾経済に与える影響は必ずしもプラスばかりでなく, マイナス面もあること。(3)ECFAは決して単なる経済的な議題ではない認識が必要である。(4)ECFAは台湾と他の国とのFTA調印を保証するものではないこと。(5)ECFA調印にともなう市場開放の圧力を直視すべきであり, 最終的に両岸貿易正常化の実現に帰さなければならなく台湾側もそれに対応できるように施策を検討すべきである。