著者
李 彬彬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

1.はじめに1990年代から、政策上の整備とともに農村女性による起業数は伸びている。特に近年、社会的に都市と農村との交流が重視されている中、農村女性が活躍する場はますます増えており、地域の活性化と農業振興へと期待される。従来の研究では、農村女性起業の半数以上を占めている「食品加工」と「流通・販売」活動をしている女性及びそのグループが研究されていることが多い。本稿では、熊本県南小国町を事例とし、農村女性グループ「農花の会」が農家民宿の経営主体となる展開過程を考察する。2.研究対象地域の概要 南小国町は熊本県阿蘇郡の北部に位置する農山村である。人口は4,429人(2010年)で、年々減少しており、少子高齢化が進んでいる。第一次産業は主に農業で、その特徴は肉用牛の生産を中心とした畜産を基調に、野菜、米と花き生産の組合せである。黒川温泉を中心とした観光サービス業の成長とともに、町全体の農業生産規模が減少しており、産業の中心が農業からサービス業へと移った。2010年の産業構造において、第一次産業の生産額は4.9%を占めているのに対して、第三次産業の割合は85%であった。3.農村女性グループによる農家民宿経営の展開 南小国町の「農花の会」は、50~60代の地元女性7人により、2003年に結成された。結成する前に、メンバーの女性たちは自主的に始めた農業簿記講座に参加していた。講座終了時、経済意識が高まった女性たちはグループを結成し、農家の暮らしをベースにした都市住民との交流や経済効果がもたらされる活動を模索した。最初に試みたのは、自宅を開放した「立ち寄り農家」であり、都市住民を対象にして芋煮会や稲刈り体験などを行った。そして、1ヶ月1回のグループ勉強会で時々調理の経験を交換しているメンバーたちは、自家産の野菜で作った郷土料理を黒川温泉の女将たちにすすめた。それらの料理に対して女将たちから好評を博し、メンバーの女性は自分の調理の技術に自信をつけた。2004年に、自宅で農家レストランをしているメンバーが先に農家民宿を開業した。それは牛舎を改造した建物全体を客に提供するものであった。(本稿では貸別荘式農家民宿と呼ぶ。)2005年、熊本県における農家民宿開業の規制緩和を契機に、グループ内の他の5人も「農林漁業体験民宿業者」として登録し、農家民宿の経営を始めた。この5軒の場合は、住む家に空き部屋を客に提供する形をとった。(本稿では貸部屋式農家民宿と呼ぶ。)貸別荘式農家民宿は、南小国町の観光シーズンに合わせ、5月から11月まで一般の観光客に利用され、経営状況が安定しているといえる。一方、貸部屋式農家民宿では、部屋の利用形態から受入れ側と利用側の両方にとってプライバシー問題が発生するため、利用者のほとんどが農村体験をする研修旅行生になった。貸部屋式農家民宿の受入れはメンバー女性のいる農家家庭の都合で不定期となっている。4.おわりに 南小国町では、「農花の会」は農業簿記講座から始まり、調理技術を手段としてグループ内外で交流活動を行い、その延長として農家民宿を開業したという過程で、農村女性グループが農家民宿経営の主体となった。部屋の利用形態は農家民宿の経営安定性に影響した。そして、農家民宿の経営によってメンバー女性の家庭的・社会的地位が向上したことがうかがえる。