著者
李 敬淑
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究は、最近発掘された植民地地域の映画を研究対象に含め、戦時下の東アジア映画の全体像を把握するものである。そして、1931年満州事変から1945年第二次世界大戦終戦に至るまでの時期において日本、朝鮮、満州の映画界に現れた文化史的現状を「女優」という一つの軸を中心に分析することで、東アジア映画界のネットワークの在り様を明らかにすることを目的とする。その中で特に主眼を置いている課題は、既存の一国的な観点からではなく、帝国の中心(日本、内地)と植民地周辺(朝鮮・満州)との間で起こる統合/分離の緊張関係の中で、東アジア地域における戦時下映画を捉えることである。そのため、本研究は田中絹代、原節子、文芸峯、金信哉、李香蘭といった戦時下の東アジア映画界における重要な女優たちを対象にし、今年度は彼女らの表象比較に重点をおいて研究活動を行った。その結果、各々の表象を日本と朝鮮・満州映画史に結びつけつつ、しかし個別的女優史としてではなく、映画産業や国家政策、言説、言語、欲望、またその時代の社会的・文化的環境との関係といった複数のレベルの要素が複雑に関わり合った重層的な歴史的変容として描き出すことができた。今年度の研究は個々の女優を演技者として検討する方法よりも、帝国と植民地の間(in-between)と彼女らがどのように接合されていたかという戦時下の映画と女優との構造的な相関関係や帝国―植民地の影響関係を浮き彫りにしたことに意義がある。