- 著者
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李 文哲
- 出版者
- 千葉大学
- 巻号頁・発行日
- 2010
本論文は、中国朝鮮族メディアである延辺テレビが中国朝鮮族の「想像の共同体」にどのような影響を与えているのかという問題意識のもとに、延辺テレビのあり方について考察するものである。 論文は、以下のように構成されている。 序では、中国朝鮮族における延辺テレビの意味を研究する目的およびそれに関する問題提起を行い、論文構成の概略を提示した。中国のような多民族社会で、少数民族言語である朝鮮語に依拠する延辺テレビは朝鮮族アイデンティティの維持や伝統文化の引継ぎ・発展と密接な連携性を持つと考えられる。それは、中国共産党の民族融合政策の下で、民族性の維持が難しくなっている朝鮮族社会が直面する問題でもある。中国朝鮮族はいかなる内外的、空間的な版図を有し、民族アイデンティティ問題をどのような角度から理解し観察しているのか。こうした問題意識のもとに、中国朝鮮族における延辺テレビの役割を探ることは、極めて重要な作業である。 第一章では、世界で最も巨大な市場をもつ中国メディアの状況を、党中央宣伝部直轄のメディア体制による管理と、市場経済への転換の中で急速に進行しつつある企業化の中で論じた。具体的には、中国の放送制度の法律、条例、管理体制、プロパガンダの歴史などについて客観的分析あるいは理論的な考察を行った。第二章では、延辺朝鮮族に焦点を当てて、延辺への移住の歴史と延辺からの人口流失の現状、延辺におけるメディアの変遷、アイデンティテイの変容、少数民族政策と朝鮮族のディスクールを分析し、論じた。第三章では、延辺朝鮮族自治州でのテレビの受信、利用状況、視聴者の性向を考察・・・