著者
李 昌一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.6, pp.281-286, 2014 (Released:2014-12-10)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1

生体分子の酸化,とくに生体膜の脂質過酸化反応による損傷,タンパク質および核酸の変性の原因となる活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)・フリーラジカルによる酸化ストレス(oxidative stress)は糖尿病,動脈硬化,高血圧症などの生活習慣病だけではなく,脳梗塞,認知症に代表される神経変性疾患メカニズムの原因として知られている.ROS による酸化ストレスが原因とされている疾患は抗酸化システムの能力が減弱し,消去できないROSの産生量増加による酸化作用が強くなるバランスが崩れた状態である.この酸化ストレスは様々な疾患の原因となり,とくに血管病であり,生活習慣病である動脈硬化,高血圧症,糖尿病を惹き起こす.同様に,生活習慣病の一つでもある歯周病の発症メカニズムに酸化ストレスが関与していると言われている.全身疾患と歯周病との新しい相関概念としてペリオドンタルメディスン(periodontal medicine)という考えが米国から提示された.ペリオドンタルメディスンは全身疾患が歯周病に影響を及ぼすという従来の概念のみならず,歯周病が全身の健康状態に強い影響を与えるという二方向性の有用な情報を蓄積する新しい歯周病の疾患概念である.歯周病に対するヒトやラットモデルの抗炎症作用を中心とした様々な抗酸化物質による治療的効果が報告されており,歯周病の主要な要因として酸化ストレスが関与していることが考えられる.しかしながら,臨床の現場あるいは,感染症であるとともに血管病あるいは酸化ストレスが惹き起こす炎症による疾患としての歯周病が認知されているとは言いがたい.今後,様々な実験モデル,抗酸化物質を用いた臨床応用や新しい歯周病検査開発の試みなどの研究が続けられ,歯周病の酸化ストレス病因論としてのメカニズム解明を続ける必要がある.