著者
李 立栄
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究
巻号頁・発行日
no.2, pp.67-85, 2015-12-25

中国において最近インターネット企業による金融サービスへの参入が活発化しており、特にコンシューマー向けのサービスが急成長している。この背景には、(1)中国当局の規制緩和、(2)インターネット人口の爆発的成長、(3)第三者決済をめぐる法規制の明確化、(4)金利規制に伴う裁定機会などがある。第三者決済は安全な電子商取引を図るために生まれたサービスである。第三者決済の利用者は近年爆発的に増加しており、登録者ベースで8億人以上に達する。近年は第三者決済のプラットフォームでMMF(余額宝)の販売も行われており、個人は銀行預金よりも有利な金融サービスが利用できるようになっている。余額宝は発売以来僅か1年で開設口座数が1億件を突破し、資産残高が5,742億元(約12兆円)に達し中国最大のファンドとなった。銀行預金からインターネット事業者が提供するMMFファンドへの資金流出の加速は、伝統的な金融機関にとって大きな脅威となりつつある。また、インターネット上のプラットフォームを通じて融資の貸し手と借り手をマッチングさせるP2Pレンディングも、中小企業をはじめとする強い資金調達ニーズとより有利な運用先を求める投資家ニーズを背景として急速に市場が拡大している。もっとも、P2Pには金融システム上のリスクも指摘されている。コンシューマー向けインターネットファイナンスが発達した意義としては、(1)金融サービスレベルの飛躍的な向上、(2)金融包摂の進展、(3)銀行以外の新たな決済プラットフォームの登場、を指摘することができる。当局は消費者保護、リスク管理の観点から規制監督を強化する方針であるが、彼らを金融イノベーションの担い手として活用し、既存金融機関を含む金融システムのレベルアップを図る意図が伺われる。