著者
和泉 賢一 村上 一雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.79-84, 2009 (Released:2009-02-25)
参考文献数
15

症例は72歳男性.2型糖尿病と胃癌の診断にて治療中.胃癌は末期の状態であったが,化学療法を受けながら外来で治療されていた.糖尿病は,インスリンにて治療していたが,食事量が低下しており,次第に全身状態が悪化し意識レベルも低下してきたため(JCS I-3),平成18年11月入院となった.入院時血液検査にて,白血球11,070 /μlでありHb 10.2 g/dlと貧血を認めた.BUN 64.1 mg/dl,Cr 2.23 mg/dlと腎不全も認めていた.Na 142 mEq/l,K 4.5 mEq/l,Cl 94 mEq/l,血糖830 mg/dl,血清浸透圧は計算値353 mOsm/l,実測値で360 mOsm/lであった.血液ガスでは,4 L/分の酸素投与下にてpH 7.368,pCO2 58.6 mmHg,pO2 70.5 mmHg,HCO3 33.0 mmol/lであり,炭酸ガスが蓄積していた.anion gapは15 mEq/l,CRP 16.78 mg/dlであった.入院時の血清ケトン体は総ケトン体5,490 μmol/l(正常参考値<131 μmol/l),3ヒドロキシ酪酸3,420 μmol/l(正常参考値<85 μmol/l)と高ケトン血症であった.以上より,高ケトン血症を伴う高浸透圧高血糖症候群と判断した.生理食塩水とインスリン投与,電解質の補正などによる治療により,血糖と浸透圧は低下し意識状態も改善した. 高浸透圧高血糖症候群は総ケトン体0.5∼2 mM程度のケトーシスを伴うことがあるとされている1)が,老年期の5 mMを超える高ケトン血症を伴う本症例のような報告は殆どない.報告は少ないが,実際にはケトアシドーシスと高浸透圧高血糖症候群を合併する症例が認められることも多い.また,高齢者糖尿病では自覚症状が乏しいため,高度の代謝状態での悪化でも見過ごされ易い.そして,水·電解質の失調を来し比較的容易に高浸透圧高血糖症候群やケトーシスなどに至る例がある2). そのため,高齢化が進む現在,老年者の病態の多様性が非常に重要であり,このような症例を注意深く検討することが必要と考える.