著者
村上 佳恵
出版者
学習院大学大学院
巻号頁・発行日
2015

日本語日本文学
著者
村上 佳恵
雑誌
人文
巻号頁・発行日
no.16, pp.49-61, 2018-03

近年、日本語教育では、ある一つの形式が初級で一度扱われると、その形式に異なる用法があるにもかかわらず、その形式はすべて既習の項目として扱われてしまうということが問題視されている。では、初級で一度学んだ形式をどのように再度取り上げていけばよいのだろうか。本稿では、初級で一度学んだ形式を機能別に整理し、同じ場面で使われる形式を一緒に扱うことを提案する。 以下では、「逆立ちができた。」のような「実現可能」を例として取り上げる。この文は、「子供のころ、逆立ちができた(=逆立ちをする能力を持っていた)」という「過去時の潜在的な能力を表す」という解釈のほかに、「昨日初めて、逆立ちができた(=逆立ちをした)」という「過去時に実際に逆立ちをした」という解釈がある。後者が「実現可能」と呼ばれる用法である。まず、コーパスを用いて実現可能の用例が少ないことを明らかにする。そして、実現可能が必須である場面を明らかにし、その場面では、無意志動詞と有対自動詞が使われるのが普通で、実現可能は、無意志動詞と有対自動詞の穴を埋めるものであることを述べる。そして、そのために実現可能の用例が少ないことを指摘する。それを踏まえ、日本語教育においては、無意志動詞、有対自動詞、実現可能の3 つを動作主が自分の動作について動作を行う時点では、「できるかどうかわからなかったがやってみた。そして、どうなったかを述べる」という場面で一緒に扱うことを提案する。
著者
村上 佳恵
出版者
学習院大学大学院
巻号頁・発行日
2015-03-07

本研究は、現代日本語の感情形容詞について、感情形容詞の定義を行い、分類の指標をたてて考察の範囲を定めた上で、終止用法・連体修飾用法・副詞的用法という3つの用法について詳しく考察を行うものである。第1章では、感情形容詞の先行研究をまとめる。本研究では、「対象語」「属性と情意の総合的な表現」「人称制限」という3つのキーワードを取り出し、研究史を見ていく。感情形容詞が研究史上注目を集めてきたのは、感情形容詞が人間の感情を表すという意味的な特徴ではなく、「私が水が飲みたい」のように、二重ガ格をとることからであった。この二重ガ格をめぐる議論から始まる感情形容詞の研究史をたどる。第2章では、形容詞の分類を行う。これは、第3章以降の議論の前提として、感情形容詞の範囲を確定する必要があるからである。具体的には、様態の「~ソウダ」という形式を用いた形容詞分類を提示し、感情形容詞2群、属性形容詞2群の計4群に分類をする。本研究の指標は、従来の「私は、~い。」という第一人称の非過去の言いきりの形で話者の感情を述べることができるかという指標を裏側から見たものである。従来の指標では、「私は、寒い」のように、対比的な文脈でしか「私は」が現れないために判断が難しい語があるが、本研究の指標を用いれば、これらも分類が可能であることを示す。第3章では、国立国語研究所の『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(Balanced Corpus of Contemporary Written Japanese、略称BCCWJ)を用いて、感情形容詞と属性形容詞が実際の文中でどのように使われているかを調査する。活用形による分類を活かしつつ、[形容詞述部]、[名詞句述部]、[テ形述部]、[補部]、[修飾部]、[動詞句述部]、[その他]の7つの文の成分に分類する。そして、形容詞全体では[述部]として使われることが最も多いこと、また、感情形容詞は属性形容詞と比較して[修飾部]になることが少ないということをデータで示す。第4章では、終止用法として、「動詞のテ形、感情形容詞」という文型を中心に考察を行う。そして、「娘が元気にがんばっていて、うれしい」のような前件が感情の対象であるタイプと「娘が元気にがんばっているのを見て、うれしい」のような前件の動詞が感情の対象を認識する段階の動作を表すタイプに分類できることを指摘する。そして、最後に「~カラ、感情形容詞」「~ノデ、感情形容詞」という文型との比較を行う。第5章では、連体修飾用法の感情形容詞について考察する。BCCWJから連体修飾用法の用例を収集し、感情形容詞と被修飾名詞の意味関係を7つに分類する。[対象]・[経験者]・[とき]・[内容]・[表出物]・[相対補充]・[その他]の7つである。主なものは、「悲しい知らせ」のような被修飾名詞が感情を引き起こすものである[対象]と、「(大声を出すのが)恥ずかしい人」のように、被修飾名詞が感情の持ち主である[経験者]と、「うれしい気持ち」のように被修飾名詞が「気持ち」等で、感情形容詞がその内容である[内容]の3つである。この3つは、すでに先行研究で指摘されているものであるが、本研究では、これ以外に「悲しい顔」「うれしいふり」のような[表出物]というタイプがあることを示す。そして、これらの使用実態を調査し、[対象]が多く、[経験者]は少ないということを明らかにする。第6章では、「散っていく桜を恨めしく見上げた」、「花子はジュリエットを切なく演じた」といった感情形容詞の副詞的用法について考察を行い、副詞句と述語との関係を明らかにする。副詞的用法の感情形容詞は、述語との因果関係を示すものではなく、述語動詞で表される出来事と感情形容詞で表される感情が同時性を持つだけであることを明らかにしていく。第7章では、本研究の成果をどのように日本語教育に活かしていくことができるかを「Ⅴテ、感情形容詞/感情動詞」(以下、「Ⅴテ、感情」)という文型を例に考察する。初級の日本語の教科書での「Ⅴテ、感情」の扱われ方を確認し、問題点を指摘する。そして、初級の日本語教育における「Ⅴテ、感情」の扱い方を試案として提示する。終章では、まとめを行い、今後の課題について述べる。