著者
村上 彩佳
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.63-77, 2018 (Released:2019-05-11)
参考文献数
30

ジェンダー平等推進政策上で用いられる男女平等理念が社会に普及する過程で、市民によって独自の解釈が加えられる例はしばしばある。例えば、男女平等理念が男女の友好的関係や異性愛主義の理念として解釈される。こうした解釈がもたらす危険性に警戒を促す研究が蓄積されてきた一方で、実際に市民の男女平等理念の認識・解釈を検討した研究は少ない。本稿はフランスの男女平等理念であり50%クオータ制の名称でもある「パリテ」を事例に、①パリテを推進する女性団体Elles aussiと、②同性婚反対運動を行う市民団体Manif pour tousに着目し、市民がパリテの理念をどのように認識・解釈しているのかを検討する。①の女性たちはパリテを男女の友好的協働関係として解釈した。こうした「穏健な」解釈は、保守派を含めた幅広い女性からのパリテ支持を生んだ。一方②のデモでは、異性婚の正統性を主張するために、パリテが「結婚のパリテ」といった形で用いられた。既にクオータ制として法制化されていたパリテは、十分な社会的コンセンサスを得ていたため、②のデモがパリテの理念を損ないはしなかった。しかし男女平等理念が異性愛主義と結びつき、ジェンダー平等推進にとって反動的に利用される危険性が示唆された。日本の「男女共同参画」もこうした危険性と無縁ではなく、クオータ制の導入と男女共同参画の理念に対する社会的コンセンサスの形成が急務である。