著者
奈良 信雄 村上 直巳
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

急性骨髄性白血病の治療成績は向上しているが、現在においてもなお難治性である。今後治療成績をさらに向上させるには、患者の予後を正確に予知し、個々の患者に即応した理論的な治療を行う必要がある。本研究では、白血病細胞の増殖能こちにサイトカイン遺伝子発現と予後が相関するかどうかを検討した。まず白血病細胞集団の増殖は、その中の一部の白血病性幹細胞によって維持されていることが確認された。白血病性幹細胞には自己再性能があり、その強弱が患者の予後と相関する事実が見出された。そこで、白血病性幹細胞の増殖機構をさらに検討した。白血病性幹細胞の増殖は、G-CSF、GM-CSF、IL-3、SCFなどのサイトカインによって刺激されることが分かった。その刺激効果は患者間で差異があったが、CSFの刺激効果と患者の予後には有意な相関は見られなかった。白血病細胞にはこれらのCSF遺伝子の発現している症例があった。ただし、サイトカイン遺伝子発現と患者の予後には有意な関連は見られなかった。白血病性幹細胞の自己再生能は種々のサイトカインネットワークによる制御を受けていることが立証されたが、その詳細な機構は解決されていない。今後の研究において、白血病性幹細胞の増殖機構を分子レベルで明らかにし、白血病性幹細胞の根絶を目指した治療体系の確立が重要と考えられる。