著者
遠山 茂樹 村久木 康夫
出版者
The Robotics Society of Japan
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.15, no.5, pp.703-709, 1997-07-15
参考文献数
8
被引用文献数
1

近年, 産業界では工場の自動化に伴い定置式の産業用ロボットに代わる移動機能を備えた自律移動ロボットや無人搬送車などへの要望が強くなってきている. これらは, その移動機構により車輪式, クローラ式, 特殊機構などの3種類に分けられるが, なかでも車輪式のものが他の機構と比べてエネルギー効率が良く, 機構が簡単であることから最もよく利用されている. さらに車輪式自律移動ロボットには, 2駆動1キャスタ (2DWlC), 1駆動1操舵 (1DWlS), 全方向移動車などがある.<br>このような車輪式自律移動車は, タイヤと路面との摩擦力で運動を行っている. このためタイヤと路面の間には必ず滑りが生じ, その運動を不確かなものにしている. 車輪式自律移動車に関する研究においては, 位置決め制御や軌道追従制御などの研究結果が数多く発表されてきたが [1]-[3], タイヤの滑りや移動機構を含めた動力学的なシミュレーションを行い, それら評価を行った研究結果はほとんど発表されていない. また, その移動機構の設計においては, 経験的に設計されたものがほとんどである.<br>本研究の目的は, 移動車両の動力学的なシミュレーションを行うことによって, 移動機構の構造やタイヤの性質が, 車両の運動性能に及ぼす影響を明らかにするとともに, 軌道追従制御の評価を行い, その結果を最適設計に役立てることである. その一環として本研究では, 当研究室で開発を行ってきた汎用の機構の運動解析シミュレータA1 MOTIONに, タイヤの力学に基づいたタイヤの力要素およびタイヤを駆動するDCモータの力要素, 減速機をモデル化したものを組み込み, 車輪式自律移動車の走行シミュレーションを行うことができるシミュレータの開発を行った.<br>そして, 本シミュレータの有用性を検証するために, 前輪キャスタ方式のマウス (小型自律移動車) の走行実験を行い, シミュレーションによる走行結果との比較を行った. その結果, このシミュレータはマウスの運動をうまく再現できるという結論を得ることができた. そして, 本シミュレータを用いて, タイヤの剛性, ホイールベース, 車軸幅, キャスタ半径などがその運動性能にどのような影響を与えるのかについて明らかにし, 軌道追従制御の評価を行った.