著者
山岸 博 舘石 充 寺地 徹 村山 誠治
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.526-531, 1998-07-15 (Released:2008-01-31)
参考文献数
17
被引用文献数
11 14

日本のハマダイコン3系統, 栽培ダイコン8品種および野生種R. raphanistrum 3系統の合計61個体を用いてRAPD分析を行い, 品種・系統内の個体間変異を調査すると共に, クラスター分析によってハマダイコンと他の2種類のダイコンとの関係を推定した.RAPD分析のためのPCRは7種類の10塩基プライマーを用いて個体単位で行った.PCRの結果, 供試個体間で多型を示す73の増幅断片を得たので, これらの断片の有無に関する類似比を, 全個体間1830組合せで算出した.栽培ダイコンは, '小瀬菜, チベット系ダイコン'の2つの在来品種を除き, 80%以上の高い品種内個体間類似比を示した.これに対して, ハマダイコンは70%弱, R. raphanistrumは50∿73%と低い系統内類似比を示し, 集団内での個体間変異が大きいことが示唆された.しかしながら, これら2つの野生ダイコンとも他の系統のハマダイコン又はR. raphanistrumの個体との類似比は系統内のそれに比べて明らかに低かった.個体間類似比を用いたクラスター分析の結果, 一部の例外を除いて同一の品種・系統に属する個体は, 各品種・系統特有のクラスターに含まれた.供試したハマダイコン3系統は, まず3系統で1つのクラスターを形成し, その後多くの栽培ダイコンが含まれるクラスターとの間で大きいクラスターを形成した.栽培ダイコンのうち'時なし'と'みの早生'の2品種は他の大部分の栽培ダイコンとハマダイコンが形成する大きいクラスターには含まれなかった.またR. raphanistrumはハマダイコン, 栽培ダイコンのいずれとも異なる位置を占めた.これらのことから, 日本のハマダイコンは, 野生種R. raphanistrumとは異なり, 栽培ダイコンに遺伝的に近縁な一群の野生ダイコンであることが示唆された.しかしハマダイコンの成立に直接関与したと考えられる栽培ダイコンは, 今回の調査では見出されなかった.