著者
村岡 和幸
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

3年計画の最終年である平成19年度は、これまでに実施した野辺山45m鏡、野辺山ミリ波干渉計(NMA)、そしてアタカマサブミリ波望遠鏡(ASTE 10m鏡)の3つの電波望遠鏡を使って得られた輝線データに詳細な解析を加え、棒渦巻銀河M83中の巨大分子雲複合体(GMA)の分子ガス密度と星形成効率の関係を調べた。まず、M83の中心領域についてNMAから得られたHCN(1-0)輝線/CO(1-0)輝線強度比と星形成効率(SFE;単位ガス質量あたりの星形成率)の相関を調べた。このときの空間分解能は160pc(GMAの空間スケール程度)である。両者の相関は、R2〜0.4で明快であった。また、M83の円盤領域(棒状構造や渦巻き腕を含む)については、野辺山45mとASTE10m鏡から得られたCO(3-2)輝線/CO(1-0)輝線強度比とSFEを480pcの空間分解能で比較し、やはり両者の間に相関があることを見出した。HCN/CO比やCO(3-2)/CO(1-0)比は、分子ガス中に高密度ガス成分(n(H2)>104cm-3)が存在する割合、いわゆる「dense gas fraction」を反映している。そのため、分子ガスの単純な総量というよりは、星形成間近の高密度ガスがどれだけ多く存在するか(すなわち、dense coreの数の多寡)が星形成効率をコントロールしていると言うごとができる。1kpc以下の空間分解能でこうした性質を明らかにしたのは初めてのことである。また、我々は、分子雲の大局的な速度勾配を仮定した場合の近似、いわゆるLarge Velocity Gradient(LVG)近似を用いて各輝線強度比から平均分子ガス密度を推定した。M83中心領域については、NMAのHCN/CO比から160pcの空間分解能で、M83円盤領域については、45m+ASTEのCO(3-2)/CO(1-0)比から480pcの空間分解能で、それぞれ平均ガス密度を推定した。こうして得られた平均分子ガス密度をSFEと比較したところ、中心でも円盤領域でも、SFE=10-12.4n(H2)0.96という一つの関係式で密度レンジ103<n(H2)<104cm-3の範囲で記述できることがわかった。このことから、・輝線比から推定した平均分子ガス密度は、Wada&Norman(2007, ApJ, 660, 276)で指摘されたように、dense gas fractionとよく対応する。・dense gas fraction(平均分子ガス密度)がSFEをコントロールする物理は、M83の中心でも円盤領域でも、定量的に同じであるという二つのことを意味する。これによって、我々は数100pcスケールでの平均分子ガス密度の推定から星形成の規模(SFE)に制限をつけられるかもしれない、という新たな可能性を見出した。