著者
村川 〓
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京大学航空研究所集報 (ISSN:05638097)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.97-108, 1958-09

数種類の成分の洋白の板について低温焼鈍の効果をしらべて,300℃から450℃にわたって焼鈍硬化による硬さの極大が二つの温度で起ることを見出した.この温度は洋白板に与えた(冷間加工による)内部歪み及び成分によってかなり著しく左右されることがわかった.精密バネ材料として洋白板を使うときには(冷間加工の前の中間焼鈍温度は約650℃として)上述の二つの温度のうち高温側の温度より少し低い温度で低温焼鈍を行なうことが望ましい.鉛を含有する洋白板の被切削性を良くするには中間焼鈍温度を約800℃とすることが望ましいことがわかった.精密バネ材料として役に立つ洋白板の顕微鏡組織を圧延面を検鏡面としてしらべると,その結晶粒は統計的に(双晶が圧延されたものは別として)細長くないが,被切削性の良い洋白板のそれは圧延方向に細長いものが多いことがわかった.以前の純銅板の低温焼鈍に関する研究を続行して,以前よりもっと純粋な銅(99.99%Cu)の板について焼鈍効果を研究した結果,この度も明らかな低温焼鈍による硬化が見られた.この硬化が0.01%以下の不純物によると考える根拠は発見し難い.したがって完全に不純物のない純銅の板でも焼鈍硬化が起ると結論することができる.焼鈍硬化の機構としては析出硬化とは結び付けないで,焼鈍のために内部歪みが緩和しようとしてdislocationが移動して結晶粒界の附近でdislocationが移動し難いような配置をとると考える方が実験的事実とよく調和する.黄銅及び洋白の板に於ける焼鈍硬化も同様に考えることができる.