著者
村松 幹夫
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

イネ科コムギ族に属する種について、類縁関係が遠い属間に交雑を行ない、遠縁雑種における体細胞染色体の安定と不安定性に関する細胞遺伝学的研究を行なった。カモジグサ属(Agropyron)はコムギ族の系統発生の比較的起源点に近く位置すると考えられるが、この族の2種、カモジグサ(A.tsukushiense)及びアオカモジグサ(A.ciliare)、を用い、コムギ属(Triticum)、Aegilops属、ライムギ属、ハイナルディア属、オオムギ属の種などと行なった合計13,015小花の交配から、胚培養によって319本(2.45%)のF_1雑種を得た。それらの雑種植物の葉身に生じるキメラ状の稿による判定では、体細胞染色体数の不安定性はオオムギとの組合せに常に生じたほか、一粒系コムギではT.monococcumとのF_1に稿がみられる。この他のコムギ亜族の属間組合せはすべて正常なF_1雑種となった。オオムギとの雑種の体細胞染色体数は幅広く変異し、両親の半数染色体数の和による期待染色体数よりも増加、または減少した細胞がみられた。染色体不安定性にもかかわらず、カモジグサとのF_1はアオカモジグサとのF_1に比べ生育が良好であり、詳細な研究が可能であった。その結果、増加染色体数と減少染色体数との比は、交配組合せ間で異なるので、遺伝的な差異と考えらる。[増加染色体数/減少染色体数]の比が0または0に近い交配組合せでは雑種植物がカモジグサ親の多倍数性半数体を比較的高い頻度で生じた。F_1雑種の染色体数が安定する組合せについても、アオカモジグサと二粒系コムギのT.polonicum及び普通系のT.aestivumそれぞれの雑種から育成した複倍数体の後代や戻し交雑世代に体細胞染色体数の変異個体の分離出現がみられた。これは複倍数体や戻し交雑世代の低キアズマ頻度によって形成された1価染色体の消失による不安定性の抑制遺伝子をもつ染色体欠失のためと考えられ、そのような遺伝子の存在が推定される。