著者
村瀬 仁美 上山 洋平 小林 達明 高橋 輝昌 徳地 直子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P1043, 2004

関東地方の暖温帯に分布するコナラ二次林群落としてクヌギーコナラ群集、クリーコナラ群集等が知られている。互いに丘陵地を中心にその分布域を接している。土壌条件で前者は、孔隙率が高く、A層が深く腐植に富み、pHが相対的に高い理化学性の良好な土壌に主として立地し、後者は、孔隙率が低く、A層が浅く腐植が相対的に乏しく、pHが低い強酸性の理化学性の悪い土壌に立地している(辻、1991)。一般的に、前者のような土壌の窒素の無機化速度は、後者のような土壌に比べると速く、硝化率も大きいと考えられる。また、硝酸態窒素を利用する植物は硝酸還元酵素活性(Nitrate Reductase Activity:NRA)も高くなると考えられる。Tokuchiら(1999)は、花崗岩質山地の斜面下部で無機化速度が速く、硝化率も高く、斜面上部では逆の傾向があることを示し、それらの立地に対応した植物-土壌系が成立することを示唆している。Koyama&Tokuchi(2003)は、それらの立地を代表する樹種3種の実生の硝酸還元酵素活性を調べ、立地の硝化能力と対応することを示した。<BR> 本研究では、平面的に群落分化が見られる狭山丘陵で植物-土壌系の関係を調べようとした。<BR> 調査地は、東京都武蔵村山市および瑞穂町と埼玉県所沢市に広がる東西11km、南北4kmの狭山丘陵の西端にあたる野山北・六道山公園内のコナラ、クヌギなどの様々な夏緑樹林が混生する林分に設けた。対象樹種は、アオハダ、アカマツ、ヒノキ、アカシデ、イヌシデ、クリ、クヌギ、アラカシ、コナラ、ムクノキ、エノキ、コウゾ、コブシ、クロモジ、ミツバアケビ、ヒサカキ、コアジサイ、ウワミズザクラ、モミジイチゴ、ネムノキ、フジ、ウリカエデ、アカメガシワ、ヌルデ、イヌツゲ、マユミ、ゴンズイ、アオキ、ミズキ、リョウブ、ネジキ、ヤマツツジ、エゴノキ、マルバアオダモ、ムラサキシキブ、クサギ、ウグイスカグラ、ガマズミ、コバノガマズミ、オトコヨウゾメ、サロトリイバラ、アズマネザサの計42種で、2003年8月下旬から10月上旬の晴れた日の10時30分から12時30分の間に各樹種、3個体ずつ葉をランダムに採取し、Havill et al.(1974)に従い、NRAを測定した。<BR> 各樹種のNRAは数値が高い順に、ムクノキ・ミツバアケビ・コウゾ・コブシ・ムラサキシキブ・エノキ・アズマネザサ・マルバアオダモ・モミジイチゴ・ヌルデ・ウグイスカグ・イヌシデ・リョウブ・クサギ・エゴノキの「高」グループ15種、ミズキ・コナラ・イヌツゲ・アラカシ・アカメガシワ・マユミ・ガマズミ・アカシデ・ゴンズイの「中」グループ9種、ウリカエデ・アオハダ・コバノガマズミ・フジ・ネムノキ・コアジサイ・クヌギ・ヤマツツジの「低」グループ8種、サルトリイバラ・ヒサカキ・クロモジ・ウワミズザクラ・ネジキ・クリの「なし」グループ6種と区分された。これらをクヌギーコナラ群集とクリーコナラ群集の2つの植生タイプに大別すると、クヌギーコナラ群集は、「高」グループが、ムクノキ・コブシ・ムラサキシキブ・エノキ・アズマネザサ・ヌルデ・イヌシデ・エゴノキの8種、「中」グループが、コナラ・アラカシ・マユミ・ガマズミ・アカシデ・ゴンズイの6種、「低」グループが、フジ・クヌギ・ヤマツツジの3種、「なし」グループが、サルトリイバラ・ヒサカキの2種の計19種となり、クリーコナラ群集は、「高」グループが、ミツバアケビ・マルバアオダモ・ウグイスカグラ・リョウブ・エゴノキの5種、「中」グループが、コナラ・イヌツゲ・アラカシ・ガマズミ・アカシデの5種、「低」グループが、ウリカエデ・アオハダ・コバノガマズミ・ネムノキ・コアジサイ・ヤマツツジの6種、「なし」グループが、ヒサカキ・クロモジ・ウワミズザクラ・ネジキ・クリの5種の計21種となった。<BR> NRAが「高」や「中」を示した樹種は理化学性の良好な土壌に主に生育しているものがほとんどであった。また、例外はあるものの、同科の種のNRAは同グループに属している傾向を示した。<BR> 以上から、クヌギーコナラ群集ではNRAが「高」、「中」の樹種が多く、クリーコナラ群集はクヌギーコナラ群集に比べ、「低」、「なし」の樹種が多くなったことから、狭山丘陵を構成している樹種のNRAは2つの植生タイプに対応する傾向があることが示唆された。