著者
江上 由里子 安川 孝志 廣田 光恵 村越 英治郎 垣本 和宏
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.171-181, 2012-06-20 (Released:2012-07-18)
参考文献数
18

インドネシアは中央政府主導による保健医療制度の整備により健康水準の向上を図ってきたが、2001年以降の急速な地方分権化政策は、地方の保健医療制度やその機能に大きく影響を及ぼし、保健医療サービスにおいて地域間格差を広げた。リーマンショック後の経済成長率は2010年に6%を超えるなどインドネシア経済は好調であり、保健政策はより具現化し、保健指標も改善してきている。そこで本稿では、インドネシアの公衆衛生に深く関わった筆者らが最新の資料などを収集し、インドネシアの保健医療に関わる関係者に有用な資料として包括的にまとめた。保健指標保健指標は全体的に改善傾向にあるが特に母子保健指標はASEAN周辺国と比較してまだ悪い。感染症疾患も多く、まだ多くの顧みられない熱帯疾患(Neglected Tropical Disease, NTD)も発生している。鳥インフルエンザ(H5N1)人発生例の報告数は依然世界で発症例・死亡例とも最も多い。生活習慣病や喫煙など新たな課題もでている。保健医療制度インドネシアの保健医療制度の概観を述べた。地方政府の保健医療行政能力を向上し同時にコミュニティーの再活性化を図ることを重視しているほか、保健所を治療のみならず地域の予防およびアウトリーチ活動の中心と位置づけ、その運営支援を行っている。保健予算は増額しているがまだGDP比で2%に留まっている。医療施設も医療従事者数も増加しているが充足していない。国民皆保険を目標として貧困者向けのコミュニティー健康保険の適応を拡大し、無料診療を受ける人が増加している。保健政策保健省戦略計画2010-2014を保健政策の軸として、コミュニティーが自立して保健の向上に取り組むことおよび公平性を展望としている。結語疫学的かつ人口動態的な移行期にあるインドネシアは、感染症や妊産婦死亡・栄養問題といった発展途上国に典型的な保健問題とともに、成人病や事故など非感染症の増加という二重疾病負担になっている。また、国民皆健康・ユニバーサルヘルスカバレージを目標としている現在、保険制度の拡充とともにその制度に対応できるだけの保健医療サービスの拡充も求められ、将来を見据えた保健医療サービスの拡充や人材育成が望まれる。