著者
宮﨑 一起 宮城 あゆみ 唐木 瞳 守山 有由美 藤本 雅史 江上 由里子 藤谷 順子 原 徹男
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.193-201, 2023 (Released:2023-12-21)
参考文献数
8

背景と目的  2015年度からNCGMが実施している医療技術等国際展開推進事業では、現地研修および本邦研修による人材育成を行ってきたが、2020年度からはCOVID-19の影響によりオンライン研修が主流となった。本事業においてNCGMとベトナムバクマイ病院のリハビリテーション科は、2022年度、手指の機能障害がある患者のリハビリテーションを用途とするスプリント装具製作のための技術指導を目的とした、双方向性オンラインハンズオンセミナーをベトナム人作業療法士等に対して実施した。本稿では、セミナーの準備および実施過程とその成果を報告する。セミナー準備と実施過程  セミナーの準備はNCGMとバクマイ病院の定期オンライン会議を通じて行った。プログラム作成、必要物品の確認、セミナー参加者の選定、ベトナム保健省への承認手続きなどを通して、研修受講側のバクマイ病院のオーナーシップの醸成も図った。セミナーでは技術指導の質を担保するため、指導側のNCGMと実習を行うバクマイ病院双方の会場をZoomで接続し、スプリント装具製作の手技のライブ撮影と共に説明と質疑応答も含めた演習を行った。研修評価は事後アンケートによるセミナー参加者の知識、技術習得の自己評価とした。成果と考察  参加者の96%(27/28)が「臨床に役立たせることができる」と回答し、また双方向性オンラインハンズオンセミナーは、スプリント装具製作の技術指導で、現地研修と同等またはそれ以上の成果が示唆された。それら成果は、①定期的なオンライン会議体制が確立された中で準備段階から研修受講側のオーナーシップが醸成されたこと、②双方のライブ撮影により詳細な技術指導が可能となり研修の質が担保されたこと、③より綿密な準備で研修提供側のスキルアップに繋がったことで得られ、更にオンラインハンズオンセミナーは現地および本邦研修と比較し、④費用対効果が高かったこと、⑤研修資料および動画が教材として活用でき、現地への裨益と持続可能性で優位性が示唆された。オンライン研修における技術指導の創意工夫から得られた知見は、対面研修と併せた活用で、より効果的な研修実施が可能であり、同様の活動を他国で展開する際の有用な方法として応用可能であると考えられる。
著者
江上 由里子 安川 孝志 廣田 光恵 村越 英治郎 垣本 和宏
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.171-181, 2012-06-20 (Released:2012-07-18)
参考文献数
18

インドネシアは中央政府主導による保健医療制度の整備により健康水準の向上を図ってきたが、2001年以降の急速な地方分権化政策は、地方の保健医療制度やその機能に大きく影響を及ぼし、保健医療サービスにおいて地域間格差を広げた。リーマンショック後の経済成長率は2010年に6%を超えるなどインドネシア経済は好調であり、保健政策はより具現化し、保健指標も改善してきている。そこで本稿では、インドネシアの公衆衛生に深く関わった筆者らが最新の資料などを収集し、インドネシアの保健医療に関わる関係者に有用な資料として包括的にまとめた。保健指標保健指標は全体的に改善傾向にあるが特に母子保健指標はASEAN周辺国と比較してまだ悪い。感染症疾患も多く、まだ多くの顧みられない熱帯疾患(Neglected Tropical Disease, NTD)も発生している。鳥インフルエンザ(H5N1)人発生例の報告数は依然世界で発症例・死亡例とも最も多い。生活習慣病や喫煙など新たな課題もでている。保健医療制度インドネシアの保健医療制度の概観を述べた。地方政府の保健医療行政能力を向上し同時にコミュニティーの再活性化を図ることを重視しているほか、保健所を治療のみならず地域の予防およびアウトリーチ活動の中心と位置づけ、その運営支援を行っている。保健予算は増額しているがまだGDP比で2%に留まっている。医療施設も医療従事者数も増加しているが充足していない。国民皆保険を目標として貧困者向けのコミュニティー健康保険の適応を拡大し、無料診療を受ける人が増加している。保健政策保健省戦略計画2010-2014を保健政策の軸として、コミュニティーが自立して保健の向上に取り組むことおよび公平性を展望としている。結語疫学的かつ人口動態的な移行期にあるインドネシアは、感染症や妊産婦死亡・栄養問題といった発展途上国に典型的な保健問題とともに、成人病や事故など非感染症の増加という二重疾病負担になっている。また、国民皆健康・ユニバーサルヘルスカバレージを目標としている現在、保険制度の拡充とともにその制度に対応できるだけの保健医療サービスの拡充も求められ、将来を見据えた保健医療サービスの拡充や人材育成が望まれる。