著者
西村 純 伝 承啓 杭 恒栄 山上 隆正 矢島 信之 広沢 春任 HENG-RONG Hang CHENG-QI Fu
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

日中横断大洋気球実験は、宇宙科学研究所と中国科学院との共同気球実験として昭和61年度より3か年計画で始まり、昭和63年度が最終年度であった。昭和61年度は2機のテスト飛翔実験を行った。昭和62年度は、銀河赤外線の観測および成層圏一酸化窒素の観測を目的の科学観測気球を2機放球した。昭和63年度は、日中共同気球実験の最終年度であり、当初日本側2機、中国側2機の計4機の気球実験が計画され、赤外線の観測、銀河X線の観測、宇宙一次電子の観測および恒星赤外スペクトル観測が行われた。上記の前者3機の気球は、正常に飛翔し、所期の目的を達する事ができたが、恒星赤外スペクトル観測気球は高度24.7kmで突然降下し始めたため、指令電波を送信し、観測器を内之浦町の山中に緩降下させた。昭和61年度から合計7機の気球が東シナ海上空を横断し、中国本土まで飛翔することに成功した。平成元年度は、過去3年間に収得した飛翔デ-タおよび観測デ-タの解析および検討の年度とし、日中両国でそれぞれ独立に解析し、その結果を持ち寄り検討会を開き総合的に評価し、今後の日中両国の気球実験の発展に寄与することを目的とした。また、3年間の気球飛翔実験の実施に際しての会計・契約・機材輸出入上の問題も含めて実験全体のまとめを図ることを目的とした。日本側より矢島教授および松本契約課長が中国を訪問し、3年間に実施した日中大洋横断気球飛翔実験で得られたデ-タの解析とまとめ、および中国側が実施した観測器の回収・輸送作業の実情調査を行う、日中共同気球実験の成果を明確にするとともに、更に飛翔デ-タおよび観測デ-タの詳細な復調および解析検討が必要であることを明かにした。また、今後本プロジェクトを発展させ、日本側観測器を中国で放球・回収する国際共同研究の可能性を併せて検討した。中国側より上記検討の結果、上海天文台の伝助教授、空間科学応用技術中心研究所の〓高級工程師、紫金山天文台の杭助教授および劉高級工程師が来日した。伝助教授および劉高級工程師は収得した銀河赤外線観測デ-タの解析を宇宙科学研究所の大型計算機を用い詳細な解析を行った。その結果、土星の観測デ-タを基に銀河中心の赤外線による構造を明かにした。杭助教授は独自で開発し気球に塔載した高圧Xe比例計数管で得られた白鳥座Xー1結果と気球に相乗りした大阪市立大学の無機シンチレ-タ検出器の結果とを詳細に検討し、白鳥座Xー1から発生する硬X線のエネルギ-スペクトルおよび時間変動を明かにした。〓高級工程師は3年間の飛翔デ-タの復調・解析を行い、中国製気球基本搭載機器であるテレメ-タ、コマンド、PCM装置およびラジオブイの性能および日本製搭載機器との比較検討を行った。また、今後の気球基本搭載機器の改良および改善について総合的に討論を行った。