著者
武田 安弘 瀬戸 菜実子 篠田 一三 高瀬 光徳 東 徳洋
出版者
Japanese Dairy Science Association
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.115-126, 2015

LF を経口摂取した場合には,通常,胃の消化酵素であるペプシンで速やかに分解される。しかしながら,LF を直接小腸の細胞に作用させた多くの研究で,多様な免疫賦活作用が確認されている。本研究では,摂取された bLF を小腸まで未分解のまま到達させ,その生理作用を十分に発揮させることを目的として,bLF を胃内消化から保護する作用を有する食品タンパク質の探索を行った。bLF と 4 種類の食品タンパク質(CN, WPI, OVA, SP)をそれぞれ共存させて人工消化試験に供したところ,CN を共存させた場合のみ,bLF の分解が抑制された。また,その作用は bLF に対する CN の重量比が大きいほど強かった。CN の主要サブユニットである α<sub>s</sub>-, β-, κ-CN は,いずれも bLF の分解を抑制し,中でも β-, κ-CN に強い作用が見られた。CN 分解物を共存させた場合は,CN と比較してその作用は弱く,分解の度合いが低いものほど bLF の分解を抑制した。これらの作用は,bLF と CN を含む天然食品である生乳,及び,bLF と CN を配合した加工食品である bLF+CN 流動食においても確認された。さらに,bLF+CN 流動食を経口摂取させた <i>in vivo</i> 試験においても,摂取した bLF の一部は未分解のまま小腸で取り込まれることが確認された。したがって,CN を bLF と共に配合した食品の摂取は,bLF のペプシン分解が CN により保護されることから,bLF の機能性を小腸内で発揮させる手段として有効であると考えられた。
著者
菅野 長右エ門 元島 英雅 飴谷 美智子 東 徳洋 栗城 均
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

ラクトフォリン(LP)は、牛乳のホエータンパク質の約10%を占め、主に27kDaと17kDaの糖ペプチドの分子間結合による糖タンパク質複合体(約150kDa)で、その一次構造における疎水性アミノ酸残基の含量と局在性から高い乳化機能をもつことが期待される機能性糖タンパク質である。本研究では、1)LPをチーズ製造における副産物であるホエーから分離するための簡易な方法をまず研究室レベルで試験し、これをパイロットプラントスケールで追試し、簡易に分離できる方法を開発すること、2)得られた分離品の乳化機能及びリポプロテインリパーゼに対する抑制効果の試験を行ってその機能を評価することを目的とし、次の結果が得られた。1.チーズ酸ホエーからLPに富む画分を分離精製する方法を研究室スケールでの研究成果を基盤にパイロットプラントスケールにおいて確立した。すなわち、363kgのチーズ製造で生じた酸性ホエーを限外濾過装置(分画分子量50万)で濃縮し、加水による膜透析、逆浸透膜装置での濃縮後、pHを4.0に調整し、95〜100℃で30分間加熱処理し、上清を凍結乾燥してLPに富む画分を54g得ることができた。本研究によって、ホエー中のLPを主要成分とする画分をpH調整用試薬等を用いただけで、物理的な方法のみで高度に精製できる実用的な方法を初めて開発した。2.より高い純度のLPは、分離したLPに富む濃縮画分をゲルろ過クロマトグラフィーによって分離精製することができた。3.LPに富む画分と乳脂肪からなるエマルションを、タンパク質濃度、乳脂肪濃度及びpHを変えて調製し、その乳化活性、粘度、粒子のメジアン径、比表面積、乳化安定性等の乳化特性を測定し、LPに富む画分の乳化能が高いことを確認した。4.LPに富む画分は、リポプロテインリパーゼによるリポリシスの52%の阻害効果を示したのに対して、高純度に精製したLPは約70%の阻害を示し、LP量を増大すと90%阻害した。